総務省が20日発表した8月の消費者物価指数は、71%の品目が前年同月に比べて上昇した。2000年以降で見ると、7割の指数が上がるのは消費増税の時期を除くと初めてだ。資源高と円安による物価高が続けば家計の購買力が落ち、景気回復の足取りが不安定になる。
8月の消費者物価指数は、変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が前年同月比2.8%の上昇だった。消費税が上がった時期を除くと、1991年9月(2.8%)以来の大きな伸び率だ。全体の総合指数は3.0%の上昇だった。
足元の物価はガソリンや電気代、ガス代など資源高が響く特定の品目が押し上げる局面から、幅広い商品やサービスが値上がりする段階に移っている。調査対象の582品目のうち、8月は71%にあたる413品目が前年より上昇した。前年比で下落したのは123品目、横ばいは40品目だった。
暮らしに身近な商品やサービスで指数の上昇が目立つ。メーカー各社が値上げに踏み切る食用油は前年比39.3%の上昇。中華麺も10.9%上がった。歯ブラシは1.6%、男子用上着は3.5%の値上がりで、デフレのもとで価格が上がりにくかった日用品や衣料品にも値上げの波が広がっている。
エネルギーの高騰も続いている。都市ガス代は26.4%、電気代は21.5%上昇した。足元では円安基調が一段と強まっている。エネルギーの値上がりは家計の負担になるだけでなく、幅広い分野で製造コストの上昇につながり、最終製品の価格に転嫁される可能性がある。
前年比横ばいだったのはJR運賃、自動車免許手数料、はがき、公立高校の授業料などの「公共サービス」が中心だ。持ち家に住んでいる人が住宅サービスを消費したとみなし算出する「持ち家の帰属家賃」も横ばいだった。日常的には価格が変わらないこうした品目を除けば、物価上昇の体感温度はより高くなる。
値下がりは携帯通信料のほか、ごぼう、レタス、なすなど天候で価格が変わる生鮮食品が目立つ。
過去と比べると、足元のインフレ基調の強さが浮かび上がる。2000年以降に継続して調査している456品目を抽出して分析すると、8月の上昇品目は71.1%(324品目)で、7月に続き2カ月連続で7割を超えた。消費増税の影響を除くと、7割を超える局面は初めてとなる。
2000年以降で見て物価上昇が顕著だったのが08年だ。世界的な金融緩和を背景に投資マネーが流入した原油価格が高騰。輸入物価が上昇し、6~9月には消費者物価上昇率が2%を超えた。ただ、個別の指数で上昇していたのは456品目のうち5~6割にとどまった。教養娯楽サービスや衣料品、家具・家事用品などの上昇は限られた。
増税の時期を除くと、物価上昇率が3%台だったのは1991年にさかのぼる。湾岸戦争後の原油高騰などが物価に影響を与えており、上昇品目の割合は9月が73.6%、11月が74.9%だった。
足元では日用品や食品、サービスなど幅広い品目が値上がりし、当面は物価の伸びが続くとの見方が強まっている。日本経済研究センターが14日にまとめた民間エコノミストによる消費者物価上昇率(生鮮除く総合)の予測平均は、10~12月期が2.64%だった。8月の調査時点では2.39%で、見通しの水準が上がっている。
今後の消費は賃金の動きが焦点となる。厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、7月の1人あたりの賃金は物価変動を考慮した実質で前年同月比1.3%減少した。マイナスは4カ月連続。名目では1.8%増と7カ月連続で伸びているが、エネルギーや食品の価格高騰に賃上げが追いつかなければ、消費の重荷になる。
一方で、物価の基調を左右する需要と供給の関係で見ると、内閣府の試算では今も日本経済全体での需要不足は解消されていない。生鮮食品とエネルギーを除く8月の物価上昇率は1.6%と29年5カ月ぶりの高水準だが、総合指数よりは低い。現時点ではコストプッシュ型のインフレの色合いが濃い。
資源高と円安が招いた物価高の広がりと深さは、過去の局面を上回る。円安が輸入物価を押し上げる効果は今後強まることも予想される。賃上げが進まなければ、物価高を起点に消費が腰折れすることになりかねない。

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