· 

為替介入が抱える不整合 資金供給せず金利上昇、大規模緩和と矛盾

日銀が14日、市場参加者に相場水準を尋ねる「レートチェック」を実施し、実弾介入に一歩近づいたとみられている。円買い・ドル売りの介入は短期金融市場の資金不足要因となり、円金利の上昇につながる。大規模緩和を堅持する日銀のスタンスと整合せず、実際に介入するのは簡単ではないようだ。

 

為替介入は円相場だけでなく、金融機関が資金を融通する短期金融市場にも影響がある。円買い・ドル売り介入で円金利が上がる流れはこうだ。

財務省の指示を受けて日銀が円買い介入に動くと、取引相手の銀行が日銀に預けている当座預金から円が吸い上げられる。銀行はゼロ金利が適用されるマクロ加算残高に余裕が生まれるため、減少分を埋めようと、無担保コール市場などで資金を調達する。その結果、短期金利に上昇圧力がかかるという流れだ。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美氏は「介入の規模次第だが、無担保コール翌日物金利(16日時点でマイナス0.053%)はゼロ%近辺まで上昇しうる」とみる。

ここでポイントとなるのが、介入で生じた自国通貨の供給量の変化をオペ(公開市場操作)で相殺、つまり不胎化するかどうかだ。円買い介入をスポット(直物)取引で実施した場合、介入資金は2営業日後に日銀の当座預金から吸い上げられる。日銀が2営業日後の資金需給に影響するオペで、介入と同規模の資金を市場に供給する不胎化に動けば、短期金利の上昇は抑えられる。

日銀幹部は「一般論として、為替介入などによって資金需給が変化し、市場金利が金融政策の誘導目標から乖離(かいり)した場合、必要に応じて(オペなどで)対応すればいい」と話す。

とはいえ一筋縄ではいかない。円買いの介入は円安を食い止めるのが目的だ。足元で円安が進む理由の一つが日米金利差の拡大であり、不胎化で円金利の上昇を抑えてしまうと、日米の金利差は縮まらず円安抑止効果が限られる。「海外ヘッジファンドは政府・日銀の為替介入の本気度を疑いかねない」(国内証券の営業担当者)

円資金を供給せず円金利上昇を容認した場合、「日銀の現在の金融緩和政策と整合しない」(三菱モルガンの六車氏)と投資家に受け取られ、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)が修正されるとの思惑が強まり、国内債券市場に不安定さが増す恐れもある。

円資金の需給変化をオペで調整しないことを「非不胎化」と呼ぶ。過去の円高局面で実施された円売り介入では、市場に放出した円資金を日銀が非不胎化し、金融緩和に近い効果を狙った。介入の原資は市場から調達するため、中長期では市場に出回る円資金は変わらないが、投資家は非不胎化を「円高阻止のメッセージ」と受け止めた。

足元では、日銀が大規模緩和を継続する中で円相場が急落している。「円安阻止のメッセージ」を発信するには、為替介入によって吸い上げた資金を市場に供給しない「非不胎化」の円買い介入が望ましいが、「現在の金融政策と完全に矛盾するオペレーションになる」(国内証券)。政府・日銀の為替介入へのハードルは高いとの見方は根強い。