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宇宙のエントロピー 宇宙物理学者 佐藤勝彦

宇宙はどのようにして今日の銀河や星、惑星、そして生命が宿る美しい宇宙の姿を作り出したのか?

物理学の重要な法則にエントロピー増大の法則がある。エントロピーとは乱雑さの尺度である。簡単に言えば、親がきれいに整理した子供部屋が、捨て置けば乱雑になるのと同じような法則だ。100年前、宇宙の膨張が知られていなかった時代には、この法則で宇宙はいずれ最も乱雑な状態の"熱的死"を迎えると考えられていた。

では、現在のビッグバン理論ではどうなのか? 宇宙は熱い火の玉で始まったのだから、もともと何の構造もない。宇宙のエントロピーは増えるだけなので構造など生まれるはずがない。それでも構造が生まれた第一の理由は、宇宙全体を支配する重力が万有引力と呼ばれるように引力しかないことだ。宇宙を満たすガスの中で密度が少し高い所ができれば、周りの物質を引き寄せて大きな塊になる。しかし、塊から構造物、例えば星や惑星などが作られるとその内部ではエントロピーが発生する。

第二の理由は、発生するエントロピーを熱エネルギーとして周りの宇宙空間にいくらでも捨てられるからだ。宇宙は膨張しているので、外の宇宙空間の温度は下がり続け、現在はマイナス270度だ。このようにして現在の美しい宇宙が生まれた。人間は熱としてエントロピーを地球外に捨て、文明、つまり秩序や構造を形成してきた。しかし今人類は二酸化炭素など温室ガスを放出し、宇宙空間へのエントロピー放出を妨げている。自滅行為をやめなければ人類はやがて"熱的死"を迎えるだろう。