新型コロナウイルス禍で在宅勤務が定着し、オフィスの役割を再定義する動きが広がっている。日立製作所は首都圏の自社やグループのオフィスの面積を2割減らす。富士通やNTTなども見直しに動く。面積削減だけではなく、従業員が交流するためのスペースを増やすなどコミュニケーションを活性化する拠点としての役割を強める。
東京都心にある日立の本社地区では在宅勤務率が6~7割となっている。新型コロナ禍が収束した後も在宅勤務を続け、同比率は5割程度で推移するとみる。余剰のオフィススペースが生じるとして、東京都と神奈川県にあるグループを含めた約40のオフィスを集約することを決めた。
「日本の働き方を元に戻さない」。日立の労務担当の中畑英信執行役専務は強調する。ハンコの押印業務を2021年度までに全面的に廃止し、22年度には連休前後や飛び石連休の間の平日に帰省先や旅行先でのテレワークを本格的に認めた。
テレワークはコスト削減にもつながっている。国内グループ会社の資料の印刷枚数は21年度に3億3000万枚と18年度比で51.1%減った。
一方、テレワークでは社員同士のコミュニケーションが希薄になりかねない。日立はオフィスを従業員の交流拠点として位置付ける。JR東京駅前の本社25階では個人用の座席を決めない「フリーアドレス」を導入。対面で座るテーブルにしたほか打ち合わせスペースを充実させるなど、コミュニケーションを活性化させる工夫を凝らした。
オフィスの見直しは各社で進む。富士通は22年度末までに20年度比でのオフィス半減を掲げる。周辺の小規模オフィスを集約するために設置したJR川崎駅前の拠点には社員が愛犬と同伴で出勤できる部屋を設けた。犬の話題をきっかけに同僚とのコミュニケーションを促す効果を狙う。
NTTは7月、社員の勤務場所を自宅を原則とし、国内のどこでも自由に居住し勤務できる制度を導入した。主要会社の従業員の半分となる約3万人が対象となる。都市部を中心にオフィスの集約を進める。
日本生産性本部の7月調査では、新型コロナ禍の収束後もテレワークを望む人の割合は73%だった。今春の行動制限要請の解除後に出社を求める企業が増え始めるなか、出社することの意義が改めて問われている。
オフィスを提供する側の不動産大手も、借り手側の意識の変化に対応する。三井不動産は東京ミッドタウン八重洲内の1フロア約4千平方メートルのオフィスについて、1フロアを丸ごと貸すのではなく、事前に複数の区画に分割したフロアも設ける。シェアオフィスも設置し、入居企業が必要とするスペースだけを柔軟に貸せるようにする。
三菱地所は21年に東京駅前に開業した地上40階建ての「常盤橋タワー」で、入居企業のチームビルディングを支援する。組織としての結束力を高めてもらうために、一流シェフと入居企業の従業員が一緒に料理をつくるプログラムをカフェテリアで提供する。
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