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韓国、インフレ退治に苦悩 ランチも2カ月ごと値上がり 家計負債急増で、中銀は「倍速利上げ」を続けられず

昨夏から利上げを始め、2022年7月には0.50%の「倍速利上げ」に踏み切ったが、8月は0.25%の通常ペースに戻した。そこには家計負債の急増という韓国特有の要因がある。

「また値上がりですか」、「食材も人件費も全部上がっているからね」。ソウル中心部の定食店の店主はお客をなだめるのに必死だ。この店のメニューは、ご飯とチゲスープ、キムチに肉と魚、野菜など日替わりのおかず6種が付く定食のみ。今年に入って2カ月ごとに500ウォン(約50円)値上げしており、8月には9000ウォンになった。

この定食店は安い方で、オフィスビルの食堂街などでは1万ウォンでランチは食べられなくなり、「ランチフレーション」との流行語も生まれた。食材、人件費、電気・ガス代、賃料などの値上がりが原因だ。

実際、韓国統計庁が毎月集計する消費者物価指数(CPI)は上昇傾向が鮮明だ。21年は2~3%水準だった上昇率は22年3月に4.1%を記録し、5月は5.4%、6月は6.0%、7月には6.3%と加速。8月は原油価格の下落に伴い、5.7%に鈍化したものの、1998年以来のインフレが続く。

韓銀も先手を打って対応してきた。21年8月に利上げを始め、1年間で政策金利を0.50%から2.50%まで段階的に引き上げた。李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁は「5~6%台の高い物価上昇傾向は来年初めまでは続く」と警戒し、利上げを継続する方針を明確にしている。

韓銀の李昌鏞総裁は0.25%のペースで利上げを進める方針を示す

韓銀の利上げは、国内物価に加えて米国との金利差も意識したものだ。米連邦準備理事会(FRB)は6月から0.75%と通常の3倍速の利上げを進めており、9月20~21日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げに踏み切れば、韓国の政策金利を上回る見通しだ。

アジア通貨危機時の韓国ウォン暴落の経験から、韓銀にはキャピタルフライト(資本逃避)への警戒が残る。貿易構造は変わっても相対的にウォンの脆弱性が意識され、米韓金利差の縮小もあってウォンは対ドルで大きく売られ、足元で13年ぶりの安値水準となっている。

それでも韓銀は8月に利上げペースを緩めた。これは膨らんだ家計負債を意識したためだ。韓銀によると、21年末の家計負債額は1861兆ウォン(約190兆円)と16年末比で39%増加した。文在寅(ムン・ジェイン)政権下の不動産価格の高騰で、国民が多額の住宅ローンを抱え込んだためだ。

金融監督院がまとめた家計負債の国内総生産(GDP)比率で、韓国は104%と、日本(64%)や米国(79%)と比べて個人の借り入れが多い。さらに韓国では住宅ローンの8割ほどが変動金利で、政策金利の引き上げで利払いが増える。

ソウル市のマンション平均価格は円換算で1億円を上回っており、所得水準に見合わない住宅ローンを組んだ家庭も多い。7月末時点の平均貸出金利は4.16%で、利払い負担は重い。大幅な利上げで今後負担がさらに大きくなれば、返済に窮する家庭が増えかねない。

インフレ、ウォンの脆弱性に加えて家計負債の増大という課題を抱える韓銀。FRBなど世界の中央銀行と歩調を合わせながら、金融政策をどう運営するか。韓銀は変数の多い複雑な方程式の解を模索し続けている。

(ソウル=細川幸太郎)