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野村証券は悩んでいる Web3、熱狂と不信 Web3 熱狂と不信(1)

暗号資産(仮想通貨)を含むデジタル資産にどう関わるか。激論の末、グループ最高経営責任者(CEO)の奥田健太郎がひきとった。「新しい技術を無視はできない」

 

野村は仮想通貨に半身の構えだった。2020年に機関投資家向けにデジタル資産の管理サービスを始めたが、海外に限定していた。巨額の仮想通貨が流出した18年のコインチェック事件以降、金融庁が規制強化に乗り出していたからだ。

だが技術の進歩は速い。ブロックチェーン(分散型台帳)を基盤にした次世代インターネット「Web3(ウェブスリー)」が登場。世界のWeb3企業は株式ではなく、事業やプロジェクトの価値を裏付けに発行するトークンを使って資金調達を始めた。

株式の引き受けや新規株式公開など、「株式会社」とともに成長してきた証券会社の事業モデルは今後も続くのか。答えを迫られた野村は株式とトークンを組み合わせた資金調達支援に乗り出す。執行役員の池田肇は言う。「トークンの世界を理解するのは時間がかかる。だが触っておかないと気付いた時には市場の変化に取り残されているかもしれない」

1990年代に離陸したネットは、利用者が「見るだけ」のWeb1.0、SNS(交流サイト)などで「自ら発信する」Web2.0へと進化したが、米GAFAなどにデータや利益が集中するようになった。

Web3では無数の個人コンピューターに分散してデータを保存・管理する。巨大プラットフォーマーによる中央集権的な構造から分散型に変わる。事業ごとに人が集まり、資産を購入したり報酬を受け取ったりする仕組みを作れる。取引所や銀行を経由しない分散型金融DeFi、メタバースなど新たなビジネスが芽吹き始めている。

マネーが動く。

米テック株が急落していた5月。米大手ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツは仮想通貨ファンドで45億ドル(約6400億円)を調達し、有望なWeb3企業に投資すると発表した。ホロウィッツ幹部のクリス・ディクソンは「Web3企業の黄金時代に入った」と訴える。

「こんなに申し込みがあるとは」。DeFiで高利回り債券に投資できるサービスを開発するセガファイナンスCEOの豊崎亜里紗は驚いた。資金調達先を募ると予定の約20倍の40億円近い申し込みがあったからだ。

政府も動く。「米国のリーダーシップを確保する」。米大統領ジョー・バイデンは3月、デジタル資産の開発を加速させる大統領令に署名した。仮想通貨を含むデジタル資産の価値が一時3兆ドルを超すなど無視できなくなった。中国も国家支援で開発するブロックチェーンサービスネットワーク(BSN)で独自のWeb3を模索する。

時代は一直線で進むわけではない。

「信じられない」。8月、仮想通貨「テラ」の創設者ド・クォンが業界のメディアに登場すると、投資家などがSNSでクォンを批判した。テラは米ドルと連動するように設計されたステーブル(安定した)コインといわれ、法定通貨に代わる決済手段になるとして注目を集めた。

だが仮想通貨からマネーが逃げ出すと、価値を保つためのアルゴリズムが機能せずテラは急落した。シンガポールの仮想通貨ファンドなどが連鎖破綻する一因になった。通貨が機能せずに新しい世界を作れるのか。テラ騒動は仮想通貨への不安を不信に変え、Web3に疑問を投げかけた。

テックの大物経営者も懐疑的だ。「Web3を支配しているのはベンチャーキャピタルだ。別の中央集権的な存在だ」。ツイッター創業者のジャック・ドーシーが21年末に投稿すると、米テスラ創業者のイーロン・マスクも乗っかった。「誰かWeb3を見たか? 見つからないんだ」

新技術や思想は懐疑の目を向けられながら育つ宿命にある。熱狂と不信が交錯するWeb3は、その混沌の中にある。(敬称略)

新たなネットのかたちになるのか。Web3の最前線を追う。