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失敗に学ぶビジネス戦略 事業停止の判断も重要/報告体制整え事故激減 山田剛

成功者だけでなく、失敗者の痛切な体験談が役に立つこともある。失敗に学び、敗因を冷静に分析して対策を練ることも成功への近道といえそうだ。

 

企業が破綻する時、その責任は最後の社長ではなく、何代か前の経営陣にあることが多い。『拓銀 敗戦の記録』(北海道新聞社編)は、1997年に経営破綻した北海道拓殖銀行末期の苦闘を「最後の頭取」となった河谷禎昌氏へのインタビューや3千枚もの内部文書を基に再現する。

バブル経済の余韻が残る90年代初頭。有力融資先に恵まれなかった拓銀は大手都銀に対抗すべく「インキュベーター路線」を打ち出し、カブトデコムやソフィアグループといった新興企業や道外の不動産会社などに積極的に貸し付ける。

不良債権に関する引き継ぎもなく頭取に就任した河谷氏は、新部署主導の「おかしな融資」や、派閥をつくって情報を抱え込む前任者らの後始末に奔走した。

だが、「拓銀は危ない」との風評に内部文書は「支店長は明るく振る舞う演技力を」などとカラ元気を鼓舞した。最後には子会社や行員に自社株購入を指示するが、日銀への準備預金が積めなかった拓銀は旧大蔵省(現財務省)から事実上見捨てられた。

関根諒介著『倒産した時の話をしようか』は、居酒屋チェーンや美容サロンなど8人の「倒産社長」のインタビューを掲載している。事業拡大のスピードに人材育成が追いつかなかったケースや、財務に明るいパートナーの不在など、失敗の原因は実に多様だ。

倒産への負のイメージが強い日本社会に疑問を呈し、企業の新陳代謝を促すためにも「勇気ある倒産や廃業を決断した経営者をもっと評価すべきだ」と強調。倒産社長の再起を支援する政策の整備を訴える。

有名企業が満を持して投入した製品やサービスでも失敗は見受けられる。

荒木博行著『世界「失敗」製品図鑑』は、セキュリティーの不備を犯罪集団に狙われたセブン&アイ・ホールディングスの「セブンペイ」や、動画配信サービスの登場で瞬く間に魅力を失ったNTTドコモの携帯電話向け放送「NOTTV」などの事例を分析。失敗の原因を「ユーザー視点の欠如」や「競争に勝つ条件への無理解」などに分類する。

その一方、任天堂はソフトが充実せず失速したゲーム機「Wii U」の教訓を生かし、後継機「ニンテンドースイッチ」を大ヒットさせた。失敗から学ぶことができる企業は強い。

卒業生から1300社を超えるスタートアップが生まれたハーバード・ビジネス・スクールの教授トム・アイゼンマン氏の『起業の失敗大全』は、有望なスタートアップが失敗する原因として、従業員やパートナー、投資家との関係や不十分な顧客調査、初期顧客の熱狂に惑わされる「疑陽性」などを挙げる。

著者は会社の売却など事業停止の判断こそが重要と説くが、本書に登場した起業家がその後再起して活躍していることを示し、起業を志す者たちには情熱を持った挑戦を呼びかける。

マシュー・サイド著『失敗の科学』は、厳罰化ではなくミスの報告体制を確立して医療事故を激減させた米病院の事例を紹介、「失敗を調査して学ぶことは最も費用対効果がよい」と提言する。

失うものが大きい人ほど自分の誤りを認めず、事実を無視したり解釈を変えたりするという著者の指摘は、多くのミスが人間の心理に起因していることを思い知らされる。

【さらにオススメの3冊】
(1)『日本車敗北「EV戦争」の衝撃』(村沢義久著)…もはやテスラや中国勢にはかなわないのか。
(2)『失敗だらけの人類史』(ステファン・ウェイア著)…タイタニック号の遭難などの背景は。
(3)『世界「倒産」図鑑』(荒木博行著)…そごうからトイザラスまで。