新規開発や販売が伸びず、新築住宅の値下がり期間は過去最長に並んだ。不振にあえぐ開発企業向けの不良債権が増え、問題が金融システムに波及する兆しもある。共産党大会を開く年は景気対策で経済成長率が高まる傾向にあったが、2022年は2%台の低成長にとどまるとの予測すら出てきた。
中国国家統計局が16日発表した8月の主要70都市の新築住宅価格動向によると、各都市平均の価格下落率は0.3%だった。7月の0.1%より拡大し、12カ月連続で前月を下回った。14年5月~15年4月に並ぶ最長期間となった。
住宅販売面積も前年同月比24%減と2ケタのマイナスが続く。政府の資金規制や販売不振で開発企業は資金不足から抜け出せず、新規開発も低迷する。1~8月の不動産開発投資は前年同期を7.4%下回った。各年同じ期間で比べると、遡れる05年以降で初めての減少だ。
開発企業の倒産などは銀行経営も揺るがしかねない。中国メディアによると、国有四大銀行や株式制銀行など大手15行のうち13行は、6月末時点の不動産企業向け不良債権比率が21年末より上昇した。
銀行全体の不良債権処理額は1~6月に1兆4100億元(約29兆円)で前年同期より18%膨らんだ。

開発企業の資金不足で工事が止まる物件も続出した。7月には、未完成物件の家主が抗議のため住宅ローンの返済拒否を表明する動きが全国に広がった。政府は2000億元の金融支援で工事再開を促すが、対象の住宅ローンなど不動産融資は最大9000億元に及ぶとの試算もある。
住宅市場の混乱が終わらなければ、金融不安に飛び火する懸念は強まる。丸紅中国の鈴木貴元・経済調査総監は「銀行が脱不動産業を進めようとしても、有力な貸出先が見つからなければ銀行経営も停滞する」とみる。
米ハーバード大のケネス・ロゴフ教授らの分析によると、中国の不動産関連の国内総生産(GDP)に占める比率は3割に達する。2割以下の日米欧と比べて不動産依存が目立つ。不動産市場の低迷は中国の景気回復の足かせになる。
国家統計局によると、8月の工業生産やインフラ投資など固定資産投資は前年からの伸びが拡大した。小売売上高も昨夏の反動で持ち直したように見えるが、季節要因をならした前月比でみると2カ月連続で減少した。
習近平(シー・ジンピン)指導部は新型コロナウイルスの感染封じ込めを狙う「ゼロコロナ」政策を堅持している。今夏の感染再拡大で移動制限を厳しくした都市が増え、消費活動を抑え込んだ。
都市部の新規雇用が3カ月ぶりに前年同月比マイナスに転じるなど雇用の回復が遅れていることも消費の重荷だ。
中国共産党は10月16日、5年に一度の党大会を開く。中国は、党大会に向けて景気が上向く「政治的景気循環」が指摘されてきた。1990年以降の実質経済成長率をみると、党大会を開催した年の平均成長率はそれ以外の年よりも高かった。
新たな指導部をはじめ重要な人事が党大会で決まるだけに、地方官僚が出世競争で投資をふやしてきたためだ。ただ22年は習指導部がゼロコロナ政策を優先し、不動産不況も長引くなか、景気は停滞局面を抜け出せずにいる。
バークレイズは22年の中国経済成長率の見通しを2.6%と、従来予想より0.5ポイント下げた。新型コロナ対応の厳格な移動制限と住宅市場の混乱のほか、今夏の電力不足や外需の落ち込みをマイナス要因に挙げる。
共産党は7月に開いた中央政治局会議で「景気回復の流れを強固なものとし最良の結果を得られるよう全力を尽くす」と打ち出した。3月に「5.5%前後」と定めた22年の成長率目標の達成が難しいことを認めた格好だ。
ただ今夏に消費が再び落ち込むなど景気回復の力は弱い。党大会開催という政治イヤーにもかかわらず、通年の成長率が目標を大幅に下回る異例の事態になる公算が大きくなっている。

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