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「パックご飯」だけ実りの秋 コメ余りに出口見えず

最大手のサトウ食品やアイリスオーヤマなどメーカーは相次ぎ増産投資に踏み出した。対照的に袋入り精米は売れず、半世紀にわたるコメ余りに出口は見えない。補助金で作付けを増やした飼料用米も需要が限られ「そろそろ限界」との声が聞こえる。

 

サトウ食品は7日、新潟県聖籠町の同社工場に約45億円を投じてパックご飯の生産ラインを増設すると発表した。「玄関あけたら2分でごはん」で知られる「サトウのごはん」を年間6500万食つくれる。佐藤元社長は「実力のある演歌歌手のように、これからも徐々に右肩上がりで伸ばしていく」と自信を見せる。

このほかアイリスが約50億円、JA全農ラドファ(宮城県加美町)が約30億円の増産投資を明らかにしている。無菌包装米飯とレトルト米飯の21年の生産量は合計23万トンと過去最高だった。高齢夫婦世帯などが炊飯器を使わず日ごろからパックご飯を食べている。玄米や発芽米、雑穀入りなどで消費者の健康志向もとらえ、生産量はこの10年で約7割増えた。

一方、22年産の新米が出回る季節になってもスーパーの袋入り精米の売り場は盛り上がりを欠く。円安とウクライナ危機による小麦価格の高騰でパンやパスタが値上がりしたが、割安なコメへの需要シフトは進んでいない。

食品スーパー、オーケー(横浜市)は「この機会に主食としての米をお薦めいたします」とのポスターを貼り出したものの、「売り上げに大きく貢献しているとはいえない」(担当者)。

あるスーパーの担当者は「高く売りたいブランド米ばかりが乱立し、かえって安売り競争になっている」とこぼす。「魚沼産コシヒカリ」「北海道産ゆめぴりか」など食味評価で最高位「特A」の銘柄は40を超える。かつて60キログラムで2万円超だったJAなどとコメ卸の取引価格は1万2000円台に沈み、それでも需給のミスマッチは解消されない。ブランド米ではないコメはむしろ品薄だ。

コメ消費の約3割を占める外食や中食など業務用には、一般に高単価のブランド米は向かない。コスト重視の需要家が多く、丼物のタレとの相性などが重要になるからだ。コロナの行動制限がなくなり外食需要は戻りつつある。農水省OBである筑波学院大学の荒幡克己教授は「単価の高い特A銘柄ばかりを目指すのは近視眼的だ。他の食材との組み合わせを評価する指標も必要だ」と指摘する。

およそ半世紀にわたった減反こそ2018年産から廃止されたが、市場メカニズムは十分に働いていない。主食用米からほかの作物への作付け転換に補助金を出す生産調整システムは温存された。農家は主食用米の相場をにらみつつ、比較的所得を確保しやすい飼料用米を選ぶ傾向が強い。

実は鶏や豚のエサとして配合飼料メーカーなどが安価で引き取る飼料用米は、主食用のコシヒカリなどをそのまま飼料用に転換することが多い。全く同じ品種で農作業も変わらないため、農家は「補助金が出るし、主食用米の価格が上がればまた戻せばいい」(千葉県の男性)との判断に傾きやすい。

もっとも、飼料用米の需要はもともと強くはない。養鶏の配合飼料に混ぜるコメを増やすと卵黄の色が薄くなるなどの制約がある。業界関係者の間では「飼料用米の推進はそろそろ限界ではないか」との声が出ている。荒幡氏は「生産者の所得保障に軸足を置いた補助金では、コメの需給ギャップは埋まらない」と強調する。

日本の食料自給率の向上には小麦や大豆への作付け転換が望ましい。しかし、補助金によって所得を大きくかさ上げしても、水田に戻しにくい畑作への転換はほとんど進まない。減反によって高い米価が維持されてきた過去の経験から「米価はいずれ上向く」という期待が根強い。そもそも小規模の高齢農家は作付け転換のための設備投資負担に耐えられない。

アイリスによるパックご飯の増産投資には生産量の約2割を東南アジアなどへ輸出する狙いがあるという。こうした輸出用のコメには「新市場開拓用米」の補助金が出るが品質管理の基準は厳しく、作付け面積は0.7万ヘクタールと飼料用米の10分の1に満たない。

22年産のコメは最大産地の新潟県でJAグループが仮払いする集荷価格が前年に比べて約12%上がった。肥料の値上がりなど生産コストが上昇した農家を支える政治的な値決めだが、これを小売価格に転嫁できるかどうか。流通関係者はコメ余りを助長しかねないと懸念している。

〈Review 記者から〉主食陥落「Xデー」に現実味

日本の国民1人当たりコメ消費量は1962年度の118.3キログラムがピークだった。庶民の食卓に副菜はまだ少なく、コメを炊いて1日に茶わん5杯近く食べていた。生活が豊かになるにつれてコメ消費量は減り、早くも70年には減反が始まっている。20年度の消費量は50.7キロと同2杯あまり。冷夏による凶作でタイ米などを緊急輸入した93年当時を3割近く下回る水準だ。

一方、パンやパスタ類などによる小麦の消費量は70年代から同30キロ台で安定しており、コメが小麦を下回る「Xデー」が現実味を帯びてきた。消費者のコメ離れだけではない。コメ卸大手、神明ホールディングスの藤尾益雄社長は「生産者の高齢化と営農コストの上昇で供給サイドに限界がくる日も近い」と大量離農の可能性を指摘する。

Xデーを回避して主要国で最低レベルの食料自給率を支えるには、需要に合った品質と価格のコメを供給していくしかない。需給ギャップで品薄になりがちな業務用米では、茨城県の生産者団体で構成する百笑市場(下妻市)がモデルケースになる。単位面積当たりの収穫量が多い品種を外食チェーンなど法人向けに開発。契約栽培は約1600トンにのぼる。

これまでも切り餅の無菌包装を応用したパックご飯、コメをとがずに炊ける無洗米など一部では新技術による市場開拓が進んだ。「茶わん1杯30円」というコスト競争力を引き出す創意工夫も求められる。

(沢隼)