過去2年半で膨らんだ米国の株式、住宅、イノベーションの3つのバブルに、米連邦準備理事会(FRB)が立ちはだかる。「市場vs中央銀行」の対立で資産価格は乱高下し、2008年9月のリーマン・ショック前後に観測された警戒サインが相次いで発せられている。
13日の米ダウ工業株30種平均は前日比1276ドル(3.9%)安と今年最大の下げ幅を記録した。14日の日経平均株価も大幅安で始まった。
上昇率が市場予想を上回った8月の米消費者物価指数(CPI)のポイントは家賃を中心とする住居費の伸びが高水準だという点だ。FRBは保有する国債や米住宅ローン担保証券(MBS)の削減(量的引き締め=QT)を9月から本格化しているが、「進捗」は大幅に遅れている。
住宅バブル
20、21日の米連邦公開市場委員会(FOMC)ではMBSの削減について、償還分の再投資を停止する受動的な方法ではなく、積極的な売却の導入が検討される可能性が出てきた。今年のFOMCで投票権を持たないがアトランタ連銀のボスティック総裁は、その必要があると主張している。MBSに連動する「iシェアーズ米国MBS上場投信(ETF)」は13日に94.60ドルと6月中旬に付けた年初来安値(94.32ドル)に急接近した。
米住宅市場にはすでに「リーマン級」の数字が散見される。ローン金利の上昇と住宅価格の高騰で販売にブレーキがかかり、7月の新築住宅在庫(季節調整済み、年率換算)は前月比3.1%増の46万4000件と08年3月以来の水準に膨らんだ。販売件数を在庫数で割った「販売・在庫倍率」は1.1倍と年初の2.1倍から急落。09年3月以来の水準に低下した。米S&P500種株価指数の前年同月比の騰落率は販売・在庫倍率に連動する傾向が強い。
強欲のバブル
「強欲のバブル」が、株価の割高・割安を判断する指標であるリスクプレミアム(危険対価)にみてとれる。株式の期待収益率を示すとされる益回り(1株利益を株価で割った値)から安全資産(10年物国債)の金利を差し引いて求める値だ。投資金額に対し、投資家が1年にどの程度の安全資産を上回る利回りを求めているかを示す。数字が低いほど、わずかな超過利益を求めて投資家が株式に殺到し、株価が割高なことを意味する。
S&P500種ベースの直近値は年2.3%前後。米金融危機直前の07年秋並みの低い水準にとどまり、リーマン以降の平均を約1.9ポイント下回る。株価が下落しても米10年物国債の利回りの上昇が大きく、割高感が一向に解消しない。金利が上がると株が売られるのはこのためだ。
東証株価指数(TOPIX)やドイツ株価指数(DAX)、香港ハンセン指数はいずれも7.6%程度で、リーマン後の平均よりは高い。だが、米株にショックが起きると米株とともに各国の株式リスクプレミアムも跳ね上がる(株価は急落する)性質がある。日銀の長短金利操作によって日本株だけが特別割安なわけでもない。
イノベーションのバブル
新型コロナウイルスショック以降、住環境の改善やデジタルトランスフォーメーション(DX)への移行を求め、イノベーションへの期待が過度に高まった。その象徴である米ナスダック総合株価指数にもリーマン以来の赤信号が点滅している。12カ月移動平均が24カ月移動平均を下回り、「デッドクロス」と呼ばれるチャート上の売りサインがあらわれた。今月、1万3560未満(13日時点では1万1633)で終われば、08年9月~10年2月以来のデッドクロスが確定する。
FRBによるQTはカネ余りをよりどころとするバブルにとって「天敵」だ。資産市場への逆風が強まるのは避けられない。

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