新型コロナウイルスの感染拡大でオンライン授業になると、録画された講義を全て1.5倍速で見るようになった。同大4年の大喜航太郎さん(23)も、教授が一方的に話す講義は「情報量が薄く、眠くなる」。
セイコーホールディングスの2021年調査ではオンライン講義を倍速視聴する学生は半数を超える。「内容を短時間で理解して、もっと先のことを学びたい」(都内の大学院生)。捻出した時間は他の学習に充てたい。バイトや趣味の時間も足りない。明治大学1年の尾崎陽菜さん(19)は「オンデマンドの授業はバイト前や空き時間に倍速で見る」。タスクを無駄なく詰めるタイムパフォーマンス(タイパ)意識が透ける。
じれる学生の気持ちをくみ、工夫するのは兵庫教育大学の小川修史准教授。動画投稿サイト「ユーチューブ」を参考に、オンライン講義は従来の1.3倍速で話す。「えー」「そのー」など間延びするワードは編集でカット。学生から「頭に入りやすい」と評判だ。
少しでも早く結果をつかみたいのは1日の生活も人生も同じ。若い世代が前のめりなのは未来に確信が持てないからだ。
「新卒入社後3年を我慢したところで、成長できる確証はない」。都内の25歳女性は前職のエンジニアを5カ月で辞め、待遇もよい大手コンサルタント会社に転職した。必要なお金は早めに稼ぎ、できるだけ早くリタイアするという。「60%の力で60歳まで働くより、100%で40歳まで仕事する方を選ぶ」
脱・年功序列にカジを切ったNTT。社員11万5000人の人事制度を見直し、基準を満たせば年次や年齢を問わず昇格・昇給できるようにする。ある管理職は「(若手社員は昇進待ちの)長い行列に並ぶことを"コスパが悪い"と考えている」とみる。「社長を含め抜てき人事を一度も見たことがない」(40代社員)という環境では、タイパ、コスパを追う彼らをつなぎ留められない。
成長で安心求め
半導体製造装置のディスコは、総合職新入社員が技術を学びつつ興味ある部門で働ける制度「アプリケーション大学」を設けている。1~2年後の「卒業」の際は希望部署とマッチングして配属先を選べる。「配属のミスマッチが減った。自己責任でやりたいことに挑戦できると好評」。キャリアは自ら選びたい。漫然と「待つ」のは不安だ――。そんな気持ちに応える仕組みが欠かせない。
平成不況や災害の痛手にからめ取られ、グローバル競争にもまれる日本。「Z世代」が抱える将来への不安は切実だ。明治大学の藤田結子教授は「少しでも早く成長して安心したいとの意識が強い」と指摘する。
「最小の労力で最大の成果を取る」スキルを重視するZ世代。人生100年の曲折を最短距離で急ぐだけでは見えない景色、得られない経験もあるが、「最速世代」の登場は日本の企業、社会の停滞を打ち破る原動力にもなる。

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