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マンション専有部分の配管交換問題 規約改定の秘訣

マンションの管理組合が給排水管の専有部分を交換するのは珍しい。専有部分は各住戸の区分所有者がメンテナンスするのが一般的だからだ。

この工事は、高経年化したマンションの先導的な改修事例に当たるとして、国土交通省が助成金を支給する「マンションストック長寿命化等モデル事業」に2021年10月採択されている。

マンションの給排水管は共用部分から専有部分に枝分かれしていく構造が通常なので、共用部分と専有部分を一緒に更新するのはメリットがある。共用部分の給排水管だけを交換する場合でも、住戸内に入って仕上げ材を剥がさなければ実施できない箇所が少なくない。そのついでに専有部分の配管を交換するのは合理的ともいえる。

インペリアル東久留米の住戸内にあるトイレで、排水管と給湯管を交換している様子。黒い縦管が排水管、赤が給湯管。これらを交換する際は住戸内に入り、いったん便器などの設備を取り外し、トイレの床と壁の仕上げ材を解体する必要がある(写真:日経クロステック)

インペリアル東久留米の管理組合が交換する配管は、共用部分にある給水管と排水管の縦管、専有部分にある排水管の横引き管と給湯管だ。交換する既存配管は全て金属製で、腐食などの劣化が確認されていた。それを、劣化しにくい樹脂製の配管に替えて長寿命化を図る。

専有部分にある給湯管まで大規模修繕の交換対象としたのは、漏水事故が築18年以降頻発しており、区分所有者にとって悩みの種だったからだ。

管理組合の修繕委員長は、「当初計画では原則、給湯管は工事対象とせず、区分所有者が費用を自己負担する一部の給湯管だけを交換するつもりだった。だが、複数の区分所有者から全部まとめて交換してほしいという要望が強く上がったため、大規模修繕の提案項目に盛り込んだ」と話す。

管理組合の依頼で修繕工事のコンサルタントなどを手掛ける翔設計(東京・渋谷)エンジニアリング事業部の梅津いづみ副本部長は、「区分所有者が任意に給排水管を交換するよりも、管理組合がまとめて交換するほうが漏水を予防できて、費用を抑えられる可能性がある」と説明する。

専有部分に修繕積立金、過去トラブルも

管理組合が共用部分と専有部分にある給排水管を同時に交換する方法は、国交省が21年に改訂した「長期修繕計画作成ガイドライン」と「マンション標準管理規約」に盛り込まれた。実施する際は「あらかじめ長期修繕計画において専有部分の給排水管の取り替えについて記載し、その工事費用を修繕積立金から拠出することについて管理規約に規定する」などの注意事項が記載されている。

注意事項があるのは、専有部分の修繕費用は区分所有者が負担するのが原則だからだ。そのため、専有部分の給排水管に修繕積立金を拠出することは区分所有法違反に当たるとして、区分所有者が管理組合の理事などを訴える裁判が過去に発生している。裁判で修繕積立金の拠出が認められるには、適正な手続きを踏んでいることが重要になる。

下線部が共用部分と専有部分にある給排水管をまとめて交換する方法の説明箇所。実施する際の注意事項が記載されている(資料:国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」に日経クロステックが加筆)

インペリアル東久留米の管理組合は国交省の示す方法に倣い、今回の修繕工事に当たって管理規約を複数箇所改定している。

まず、管理組合が管理できる専有部分を示した条文の中に「共用部分と構造上一体であると捉えなければ十分な機能を満たせない専有部分の設備配管」などを追加した。給排水管が管理組合の管理できる項目であることを明記する措置だ。

次に、修繕積立金の用途を記した条文の中に、専有部分の給排水管に関する項目を追加し、決議権総数の4分の3の同意を要する「特別決議」に位置付けた。

さらに、区分所有者が専有部内の配管を既に自費で交換していた場合の補償方法を具体的に記載した。区分所有者が実施した工事の内容が、管理組合の定める設備配管の改修範囲や仕様、材質と同等以上と確認できる場合は、所定の範囲内で補償するという趣旨だ。同等以上と確認できない場合は、補償の対象外となる。

既に自費で工事していた区分所有者への補償については、国交省の長期修繕計画作成ガイドラインとマンション標準管理規約にも、「十分留意することが必要」と記されている。翔設計の梅津副本部長は、「他の分譲マンションでも専有部分の配管を交換する場合は、管理組合の理事会に規約改定を提案しているが、補償についてここまで細かく盛り込んだのはインペリアル東久留米が初めてだ」と話す。

インペリアル東久留米の管理組合の修繕委員と理事たちはこうした様々な準備を重ねて、大規模修繕の決議に臨んだ。新型コロナウイルス禍の下だったので総会ではなく書面で決議を行い、大多数の同意を得ることができた。

大規模修繕工事の施工者として京浜管鉄工業(東京・豊島)を選定した。修繕費用は税別で戸当たり120万円、総額約5億円だ。

交換拒否する区分所有者とは念書交わす

マンションの管理組合が大規模修繕工事で給排水管を交換すると決議しても、全ての給排水管を交換するのは容易ではない。住戸内に入らなければ交換できない配管があるのに、区分所有者が住戸内への立ち入りを拒む場合があるからだ。

インペリアル東久留米の管理組合は、できるだけ多くの区分所有者が住戸内での給排水管工事に応じるための対策を講じている。翔設計が提案した方法だ。

1つは、区分所有者への説明会と並行して投書を呼び掛け、投書した人と個別に面談を進めたことだ。工事への不安や疑問、細部に関する意見は、説明会よりも投書のほうが上がりやすいと考えた。面談では個々の区分所有者の疑問に答えて不安を取り除くだけでなく、工事の進め方の細部についてよりよい提案も得られたという。

もう1つは、区分所有者が住戸内の給排水管交換を拒否する場合は管理組合と念書を交わす、としたことだ。念書には、大規模修繕で交換しなかった区分所有者の住戸の配管が漏水して、他の住戸に被害が発生した場合は、被害住戸の回復工事費用などを負う、といった趣旨を記載している。

従来は、配管からの漏水で発生した被害住戸の回復工事費用などを管理組合の保険でカバーしていたが、今後は大規模修繕で交換した配管からの漏水に限って、管理組合の保険でカバーすることになる。

念書を交わすのは、翔設計が過去に大規模修繕のコンサルタントを手掛けたマンションで、工事を拒否する区分所有者が出た際に導入した方法だ 。インペリアル東久留米では、今のところ該当するケースは発生していない。

20階建てで直結増圧式への変更も

給排水菅の交換方法にも、同事業で先導的と認められた工夫が複数ある。例えば、今回交換する給湯管には、既存の配管を残したまま、排水管の共用部分の工事で解体する箇所を活用して新たに設置する工事手法を採用している。共用部分に専有部分の配管を施すことで、解体する範囲を最小限に抑える。

排水管の共用部分の工事に伴い仕上げ材を解体する付帯工事が、排水管の専有部分や給湯管の工事と重複している範囲を示す(資料:翔設計)

20階建ての棟では、共用部分の排水縦管工事の工区を2つに分ける。1階~10階と11階~20階の2工区だ。工事中の排水制限期間を、1工区につき3~4日間に抑えるためだ。20階建ての場合、一度に交換すると排水制限期間が6日間程度必要になる。それでは、区分所有者から工事の同意を得にくくなると判断した。

給排水管工事と同時に、給水方法を既存の「加圧給水方式」から「直結増圧式」に変更する工事も実施する。直結増圧式のほうが水質の良い水を供給でき、維持管理費用の低減も期待できるからだ。

20階建ての棟については、増圧ポンプを中間階に設ける「多段型直結増圧式」を採用する。既存マンションでは増圧ポンプの設置場所の確保が課題になるが、インペリアル東久留米では17階の共用部分にある空きスペースを活用して解決した。

(日経クロステック/日経アーキテクチュア 荒川尚美)