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首相・日銀総裁会談、円安警戒強める 政策選択に手詰まり感 口先介入、効果持続に限界

9日、首相官邸で岸田文雄首相と会談した黒田東彦日銀総裁は足元の相場を「急激な変化」とし、「将来の不確実性を高めてしまう意味で好ましくない」と主張した。ただ、円買いの為替介入はハードルが高く、大規模金融緩和の変更は景気の腰折れを招くリスクがある。政府・日銀の対応には限界があるとの見方が円安に傾きやすい要因になっている。

黒田氏と岸田首相は9日昼に官邸で30分ほど懇談した。円相場が年初から約30円、この1カ月だけで10円ほど下落し、一時1ドル=144円台と24年ぶりの円安・ドル高水準をつけたことなどを協議した。会談後、黒田氏は現在の為替水準を「好ましくない」と指摘する一方で、「(首相から)特別な指示や要望はなかった」とも言及した。

ある日銀関係者は「総裁が話したことが全て。金融政策の変更が必要という状況ではないだろう」との見方を示す。

円安の背景に日米の金融政策の違いがあることは否めない。米国で8月に開かれた経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」で黒田氏は「緩和継続以外に選択肢はない」とし、利上げへの決意を強調した米国との差が市場に改めて意識され円安が進む下地となった。

政府は物価高を招く円安に神経をとがらせている。144円台をつけた7日、鈴木俊一財務相は「継続すれば必要な対応をとる」とけん制。翌8日に財務省と金融庁、日銀が国際金融資本市場に関する情報交換会合(3者会合)を開き、会合後に神田真人財務官が「あらゆる措置を排除せず必要な措置を取る準備がある」と、為替介入の可能性もにおわせた。

続く9日の首相・日銀総裁の会談も一連の口先介入の一環といえる。会談後に円相場は円高方向に戻したが、ある為替ディーラーは「今の円安は日米の金利差などファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に沿ったものと考える取引参加者が多い。口先介入の効果は長続きしない」とみる。さらに円安に振れた場合、政府・日銀が為替介入など実力行使に踏み切るかが今後の焦点だ。

政府が円を大量購入してドルを売る「円買い介入」は、金融危機やアジア通貨危機に見舞われていた1998年6月が最後だ。だがこの介入でも是正に至らず、98年8月には147円64銭まで円安が進んだ。

当時は米国の理解を得た上の「協調介入」だったが、今回はインフレ抑制でドル高を望む米国の理解を得づらいとみられる。ある政府関係者は「協調でなければ意味がない。米国が難色を示せば難しいだろう」と指摘する。原資なしで介入できる「円売り介入」と異なり外貨準備の制約も抱える。原資となるドル資産の大半は米国債で、大量売却すればかえって日米金利差の拡大を招く。

米国との金利差を縮めるため利上げする選択肢もある。ただ、黒田氏は7月の金融政策決定会合後の記者会見で「少し金利を上げても円安が止まることは到底考えられない」と指摘し、利上げによる円安抑制効果に疑問を呈した。黒田氏は大幅な利上げは「経済にダメージとなる」とし、為替対応で政策変更に踏み込む可能性を否定している。介入、利上げともハードルは高く、円安に対し政府・日銀の手詰まり感が色濃くなっている。