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超小型住宅 米国で広がる

400平方フィート(約37平方メートル)未満の住宅は、「タイニーハウス(超小型住宅)」と呼ばれる。2008年のリーマン・ショック以降、豊かさを見直すミニマリスト志向が世に広がり、そのビッグトレンドに20年のコロナショックが輪をかけた。また、カリフォルニア州では住民が住宅の購入をあきらめて隣接する州に引っ越すケースが目立ち始めるなど、不動産価格の高騰も後押しする。

 

そんな状況で注目を集めているのが、ネストロン(Nestron)が手掛ける家具付き超小型プレハブ住宅だ。道路で輸送することもでき、家ごとの引っ越しが可能。自分で新たに用意した土地や、各地にあるタイニーハウス生活実践者が集まるコミュニティーに設置できるので、移動の自由度が高い。

17年創業の同社はシンガポールにあり、顧客の50%以上が米国に住んでいるという。客層は20代半ばから70代までと幅広い。

 

家具は、エッジをカーブさせたデザインで、空間を最大限に利用できるように配置されている

家具は、エッジをカーブさせたデザインで、空間を最大限に利用できるように配置されている

室内には最初から家具が備え付けられていて、電気、水道、下水システムにつなげば、すぐに住み始められる点も魅力だ。特に人気があるのは未来的なデザインのキューブシリーズで、このようなスタイリッシュなものは、従来はなかった。

仕様も先進的で、アレクサ並みの人工知能(AI)システムを標準装備している。タッチパネルで床暖房や照明を調節できる。種類はベッドルームの数によって3つに分かれ、広さは156~377平方フィート(約14.5~35平方メートル)。フラッグシップモデルは2ベッドルームの「Cube2」だ。

 

2つあるベッドルームは住宅内の左右に振り分けた間取りになっているので、プライバシーは保たれる

2つあるベッドルームは住宅内の左右に振り分けた間取りになっているので、プライバシーは保たれる

住宅の素材にはスチールやアルミニウムが使われており、ネストロンは住宅の構造について最長50年を保証している。ゲストハウスやセカンドハウスとして利用できるのはもちろん、メインの住宅としても使える。この住宅は自社工場で完成させるプレハブなので、顧客の元に届いた後に組み立ては不要だ。

価格はシングルルームのCube1の場合、3万4000ドル(約476万円)で、米国までの輸送料1万6000~1万8000ドル(約224万~252万円)が別途かかる。トータルの費用はクルマと同水準で、アッパーミドル層以上ならキャッシュでも購入可能だろう。なお、先述のフラッグシップモデルであるCube2は価格が1.7倍以上高い5万9000ドル(約826万円)。ただし、輸送料はCube1と同じだ。

 

電気や水道、下水とつなげば、すぐに生活を始められる。利便性と未来的な暮らしを重視して、スマート技術も導入する

電気や水道、下水とつなげば、すぐに生活を始められる。利便性と未来的な暮らしを重視して、スマート技術も導入する

販売は20年から始めていたが、コロナの影響で輸送が遅れていた。現在はその問題は解決し、軌道に乗っている。ネストロンのスポークスマンは、「ショールームをネバダ州のほか、23年までにテキサス州やフロリダ州にオープンする予定だ」といい、米国展開に自信を示している。

そんな同社が米国市場に次いで注目しているのが日本市場だ。日本はコロナ以降、働く場所が多様化したばかりか、2拠点居住など、定住とは一線を画した生活スタイルが少しずつ広がっている。実際、ネストロンの住宅を日本語で紹介したYouTubeの動画の視聴回数は230万回以上になり、日本から問い合わせも寄せられているという。「できれば23年には日本展開のための運営に着手したい」(ネストロン)

(日経トレンディ9月号を再構成 ライター・飯塚 真紀子)