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【社説】物価高対策がバラマキになっては困る

政府は9日、物価高に対する追加対策をまとめた。低所得世帯に5万円の給付金を支給するほか、自治体が生活者や事業者を独自に支援できる6000億円規模の交付金を新設。9月末が期限となっているガソリン補助金も年末まで延長する。対策に必要な3兆円超を2022年度予算の予備費から支出する方針だ。

原材料の値上がりや円安の進行で輸入物価は上昇が続いており、電気料金や食料品価格などの引き上げが今後も見込まれる。生活者や事業者への影響を和らげる対策がなお必要なのは確かだが、バラマキになるようでは困る。

5万円の給付金はその懸念がぬぐえない。電力、ガス、食料品等の家計負担が大きい世帯を支援するのが目的で、低所得で住民税が非課税の約1600万世帯を対象にするという。これは全世帯の4分の1程度にあたる。

住民税非課税世帯の約7割は高齢者世帯だ。仮にこれから現役世代の賃上げが進んだとしても、それが反映されて高齢者の年金額が増えるのは制度上おそらく数年後になる。物価高の影響が相対的に重くなりやすい立場にある。

だが、高齢者には収入が少なくても多くの資産を持つ人がいる。逆に非課税でなくても、食べ盛りの子どもがいるなどで食費の上昇に苦しむ世帯もあるだろう。所得だけで線引きすると、国民の不公平感が高まりかねない。

支援が要る人を見極めて迅速に給付する仕組みが一刻も早く必要だ。マイナンバーに口座情報をひも付け、行政機関が収入や金融資産の情報を把握できるようにすべきだ。給付金の課題は新型コロナウイルス禍でも露呈したが、政府の取り組みは鈍いままだ。

新たな交付金もバラマキにつながらないようにしてほしい。自治体が地域の事情に合わせて生活者や中小企業、医療機関などを支援できる仕組みだが、必要性や対象をしっかり精査すべきだ。

ガソリン補助金を段階的に縮小する案を見送ったのは納得できない。補助金による価格抑制は激変緩和の位置づけだったはずだ。市場機能をゆがめる補助金の長期化は避けるべきだ。

化石燃料への依存度を下げる構造転換を掲げた日本がガソリン消費を支える政策を採るのは首尾一貫していない。再生可能エネルギーへの移行策や省エネルギー促進策と合わせた出口戦略が要る。