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マイナス金利、円だけに スイス中銀に利上げ予想 キャリー取引活発の兆し 円安、一層の加速も

マイナス金利政策を続けているのは日本とスイスのみ。欧州中央銀行(ECB)が8日、政策金利の大幅利上げを決めたこともあって、スイスも近く利上げし、マイナス圏から脱却する公算が強まっている。日本のマイナス金利が世界で際立つことになり、円を売ってドルなど高金利通貨を買う「キャリー取引」が拡大するとの見方が多い。円安の加速もありそうだ。

 

インフレに悩まされているスイス国立銀行(中銀)は6月に利上げに着手している。市場では、次回の9月22日の金融政策発表時にマイナス圏を脱却するとの見方が増えている。金融情報会社リフィニティブによると、9月に0.75%分引き上げるとの予想が8割程度を占める。市場の政策金利予想を反映する翌日物金利スワップ(OIS)をみても、1カ月後の金利水準は0.4%程度とプラス圏の浮上を織り込んでいる。

ECBが8日、通常の3倍の0.75%の引き上げを決めたことも材料視されている。金融政策の影響を受けやすいスイス国債の2年物利回りは8日に0.8%台と約11年半ぶりの高水準をつける場面があった。

2021年時点で両国に加えてマイナス金利政策をとっていたのはECBとデンマーク中銀だ。いずれもエネルギー高騰や供給制約によるインフレ抑制のため22年から急ピッチで政策金利を引き上げ、ECBは7月、デンマークは9月にマイナス金利を解除した。一方、日銀が利上げを含め金融引き締めに転換する可能性は当面低いとみられる。

日本と海外の金利差が広がることで、低金利の円を売って高金利通貨を買い、両者の金利差で稼ぐ円キャリー取引が広がるかに注目が集まる。JPモルガン・チェース銀行によると、世界の政策金利の平均値(国内総生産で加重平均)は間もなく3%に達する。「05年ごろと同じ金利水準だ。当時も低金利の日本との金利差が広がり、円キャリー取引が活性化し始めた」と同行の佐々木融市場調査本部長は話す。

05~07年の日本の政策金利はゼロ%台に抑えられていたのに対し、米国やECBはインフレ抑制のために金利を引き上げたことで、世界の金利は3~4%台で推移した。

円キャリー取引の規模は日本に拠点を置く外国銀行の支店と海外の本店などとの送金を集計した「本支店勘定」に反映されやすい。日本で調達した円を海外送金するため、勘定に一部含まれるとされる。07年は年間234兆円と過去最も取引額が大きく、キャリー取引による影響も大きかったとみられる。

 

円キャリーは円を売るため円安は加速する。05年は最大約20円分の円安・ドル高が進んだ。

08年の金融危機や20年の新型コロナウイルス対応で各国が金融緩和を進めたことで日本と海外の金利差は縮小。キャリー取引も下火になったが、今年に入って金利差は再び広がっている。6月の本支店勘定は13兆円超と約14年ぶりの高水準になるなど、キャリー取引の拡大の兆しがある。

ヘッジファンドなど投機筋の円売り余力は大きい。米商品先物取引委員会(CFTC)によると、投機筋の売買動向を示す「非商業部門」では、ドルに対する円の売り越しは8月30日時点で4万1531枚(5191億円)。3週連続で増えているものの、07年のピーク(約19万枚)の2割程度にとどまる。

個人もチャンスをうかがっている。QUICKが算出した店頭の外国為替証拠金(FX)5社合計(週間)の建玉状況によると、円に対するドルの買い越し規模は4万9689枚と5カ月半ぶりの低水準だ。個人投資家にも円売りの余地がある。

キャリー取引が盛んになり始めた05年ごろは「FX投資がブームになり始めた時期と重なる」(佐々木氏)。外貨投資を繰り返す個人投資家が急増。主婦も多く、為替相場に大きな影響を与えたため、海外で「ミセス・ワタナベ」との異名が広がった。

外国為替市場で今月、円は1ドル=144円台と1998年8月以来およそ24年ぶりの安値を付けた。キャリー取引が円安・ドル高を加速させるリスクは確実に高まっている。