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【社説】日本の国力を損ねる若者の「博士」離れ

文部科学省が先ごろ公表した2022年度学校基本調査(速報)によると、大学院博士課程に在籍する学生数は7万5267人で2年続けて減った。修士課程を終えて博士課程に進学する割合は2000年に約17%あったが、その後低下傾向にあり、ここ10年はずっと10%を割り込んでいる。

科学技術立国をうたってきたのに、日本は博士の存在感が薄い社会といえる。人口100万人あたりの博士号取得者は英国やドイツに比べて3分の1。このまま若者の「博士離れ」が続くと国力をじわじわ損ねていく。

文部科学省は博士課程で学ぶ人たちが学業に専念できるよう、複数の制度を使って経済的支援を拡充する。25年度までに従来の3倍にあたる約2万2500人に生活費相当額を支給する計画だ。

ただ、金銭面の支援だけでは抜本的な解決策にならない。米国や中国に倣って一人前の若手研究者として処遇する必要がある。

大学では「助手」を「助教」に改めるなど07年に若手研究者の独立を促す仕組みができた。だが、博士課程学生やポストドクター(任期付き博士研究者)が、教授、准教授の手伝いや雑務に追われるケースがなお多い。独自の研究室を持つことが可能な欧米の大学とは対照的だ。

政府は10兆円規模の「大学ファンド」を作り、大学の研究力強化を急ぐ。運用益を支援に回す「国際卓越研究大学」の選定において、若い博士の活躍を促す人事制度の有無を評価してはどうか。

日本企業が博士人材の活用に消極的な点も若者の「博士離れ」の要因といえる。博士号取得者を積極的に採用し、育成、処遇すべきだ。業種を問わず人工知能(AI)やデータサイエンスなどの知見が重要になるなか、技術革新や事業改革の担い手として博士の潜在力を引き出す努力を求めたい。

日本の科学技術力の衰退は著しい。最新の論文引用調査で質の高い「トップ論文」による世界ランキングは10位にまで落ちた。優れた若手研究者が冷遇され続けるとこの傾向は当面続くだろう。

博士に冷たい国に未来はない。日本発のイノベーションを起こし科学技術力を取り戻す。それには産官学が協力して博士を育み、生かす社会に転じる必要がある。