「港区」は国際新都心めざす 森ビルなど開発一段と

森ビルは高さ330メートルの超高層ビルを建設し、三井不動産などは約1千戸の高級分譲マンションを造る。都内の再開発はこれまで丸の内や渋谷が注目を浴びていた。山手線の南東側、東京タワー周辺をオフィスや住宅の新たな集積地にすることで、国際都市として東京の競争力を高める。

 

虎ノ門や高輪、芝、三田、芝浦――。森トラストがまとめた東京23区の大規模オフィスビル(オフィスの延べ床面積が1万平方メートル以上)の供給量調査では港区の地区名が並ぶ。2022~26年の港区全体の供給量は210万平方メートルと、前回(17~21年)より3割強増える見通しだ。

一方、千代田区は27万平方メートルと9割弱減る。三菱地所が強い大丸有(大手町、丸の内、有楽町)は上位10地区から外れる。

地価は8年で2倍

港区内で街が変貌するきっかけとなったのが虎ノ門だ。14年に誕生した「虎ノ門ヒルズ 森タワー」を皮切りに、近くに「同ビジネスタワー」などを建てた。国土交通省が公表する虎ノ門1丁目の公示地価は22年1月1日時点で1平方メートルあたり1060万円と14年から約2倍に上昇した。

23年には地上49階建ての「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」が完成する。東京メトロ日比谷線の「虎ノ門ヒルズ駅」と一体開発し、最上部にはイベントなどを開くビジネス発信拠点を設ける。

また、「虎ノ門・麻布台プロジェクト」は東京タワーに近い約8万1千平方メートルの区域に高さ330メートルの超高層ビルを建て、インターナショナルスクールや高級ホテルなども誘致する。東京・お台場からはデジタルアートミュージアムが移転・開業する。

森ビルは虎ノ門ヒルズが集まるエリアを、六本木ヒルズのような国際複合都市に育てる考えだ。都市開発本部の加藤昌樹課長は「環状2号線が全線開通すれば、虎ノ門は東京臨海部を結ぶ結節点となる」と話す。インフラ機能の発達が街のにぎわいにつながると期待する。

再開発の波は虎ノ門周辺に及び始めた。住友不動産は三田で大規模な再開発を進め、森トラストとNTT都市開発は24年に「東京ワールドゲート赤坂」の第1期を完成させる。30年前後だと、野村不動産などが浜松町駅周辺で「芝浦プロジェクト」を計画する。三井不は東京タワー周辺の再開発を検討している。

港区の特徴について、明治大学の市川宏雄名誉教授は「総合力の高い街だ」と指摘する。オフィスに強い千代田区や銀座など商業の印象がある中央区と比べ、港区はオフィスや住宅、商業、エンターテインメントなど幅広い分野に強みを持つと評価する。

総面積は20平方キロメートルと東京23区で真ん中の規模の港区だが、東京商工リサーチの調査では21年の「社長の住む街」ランキングで20年に続き首位だった。社長比率は13.8%と、およそ住民の7人に1人が社長とされる。

六本木を中心に外資系企業や大使館が集まり、教育機関の充実もあって外国人の居住者も多い。ある不動産会社の営業担当者は「共働きの『パワーカップル』が2人で住宅ローンを組んでも買えないようなマンションが散見される」と話す。

実際、港区では超高級マンションが相次ぎ建設されている。森ビルは1月、地上54階建ての「虎ノ門ヒルズ レジデンシャルタワー」を完成させた。供給戸数は547戸(分譲や賃貸、短期滞在)で、広さが約1270平方メートルの超大型住戸も用意した。会員制スパやインターナショナルスクールなどを併設し、「国内外から入居の引き合いがある」(担当者)と話す。

数十億円のマンション

「買えないけど住みたい」。ネット上でため息に似たコメントを誘うのが「三田ガーデンヒルズ」だ。三井不動産レジデンシャルと三菱地所レジデンスが旧逓信省庁舎跡地に建設する1002戸の高級分譲マンションで、約2万5千平方メートルの敷地面積は分譲マンションとして港区最大となる。部屋の広さは29平方メートル台から370平方メートル台で、帝国ホテルと提携したコンシェルジュがいる。

マンションは22年冬から売り出す予定で、販売価格は現時点で未定だが最高額は数十億円になる見込みだ。多くの日本人にとって手の届かない水準だ。

ただ日本不動産研究所(東京・港)によると、世界主要都市と比べ東京都港区の高級分譲マンションの価格は決して高くない。4月時点で香港やニューヨーク、ロンドン、シンガポールが東京を上回る。資産性の高さを背景に国内外の富裕層が触手を伸ばすとみられる。

住宅価格の高騰で、その街に一般の市民より国内外の富裕層が集まる構図が生まれる。こうした状況が港区で強まっていることについて、明治大の市川氏は「東京の国際化がようやく進んできた証左と言える」と指摘する。東京に先駆けてニューヨークやロンドン、パリは都市部に世界の富裕層が多く住む街になっている。東京でも港区を中心に世界の流れが及び始めたようだ。

湾岸エリアも再び脚光

再開発が活発な東京都港区だが、23区のなかでも高台から海まである起伏の大きい地区だ。最近は湾岸エリアの人気も高まっている。

港区について、三井不動産レジデンシャルの嘉村徹社長は「高級住宅地が多い区だが、色々な性格を持ち開発業者として面白い」と評価する。

湾岸エリアの再開発も進む(野村不動産などが手掛ける芝浦プロジェクト)

不動産情報サイト「マンションレビュー」を運営するワンノブアカインド(東京・港)のデータをみると、その一端が見える。同社が保有データをもとに推計した1~7月の中古マンションの平均価格(70平方メートル換算)によると、港区内で最も高い町名は元麻布で1億6千万円だった。虎ノ門や六本木、西新橋などと続き、海岸は8千万円弱となった。

川島直也社長は「港区では3A(赤坂、麻布、青山)が代表的な地区だが、近年は芝浦や海岸など湾岸部の人気が高まっている」と話す。かつて工場や倉庫街だった湾岸部だが、近年は高層マンションが建ち今後の再開発による街の変化が注目される。

港区内で各社がしのぎを削っているが、全ての再開発が成功するとは限らない。オフィス需要は新型コロナウイルスの流行で強まった企業の解約や縮小がひとまず収まり、拡張移転などの動きも出始めている。ただ「新型コロナ前には戻らない」(三幸エステートの今関豊和チーフアナリスト)可能性が高い。それだけに価格や立地に加え、社員が働きやすく生産性の上がるオフィスかどうかがテナント獲得競争を左右する。

供給過多の懸念も

マンションを中心とする住宅の売れ行きは引き続き好調に推移しているが、1億円以上の高額物件を購入できる層は限られてくる。三井不レジなどが売り出す「三田ガーデンヒルズ」は販売戸数が約1千戸と多く、売り切るのは容易でない。

三井不レジの神長次郎・都市開発一部事業室室長は「幅広い広さの部屋を用意しており、単身者からファミリー層、シニア層までターゲットを絞らず幅広い顧客を取り込む」と話す。実需が中心となるが、セカンドハウスや資産性の高さを見込んだ投資目的の購入も想定する。

虎ノ門は密集した小規模ビルや住宅の老朽化で街の地盤沈下が進んだなか、港区を戦略区域とする森ビルが地元住民と協力して再開発してきた。虎ノ門以外の地域でも地元と連携しながら、機能性の高いオフィスや住居を造っていくことが、港区を国際都市にするためには欠かせない。

森ビル系のシンクタンク、森記念財団都市戦略研究所(東京・港)が公表する「世界の都市総合力ランキング」で、東京は6年連続で3位を維持する。港区など都心部で続く再開発は国内で東京一極集中を助長させる形だが、中長期的に「東京」の磁力を上げることは世界から有力企業や優秀な人材、お金、モノが集まる好循環につながる。

(原欣宏)