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森トラスト、700億円で米ビル取得 円安下でも積極投資

投資額は700億円超に達する。米国では利上げの影響で投資ファンドなどが不動産投資を控えつつある。急速な円安で海外での物件取得は費用がかかるが、安定した利益を得られる物件を取得できる機会と判断。今後、米国だけでなく海外での不動産投資を進める。

ワシントンのビルは地上11階、地下5階で賃貸面積は約4万4500平方メートルで、物件を開発した米国の不動産大手から取得した。2015年に完成し、現在は10社以上の企業が入居する。ホワイトハウスなどに近い好立地にあり、新型コロナウイルスの影響で働き方が多様化するなかでも、中長期的に安定した収益を見込めると判断した。

森トラストは27年度までに2000億円を海外投資に充てる予定だったが、約6年前倒しで達成した。今後も優良な物件があれば、追加で投資する考え。

外国為替市場で24年ぶりの円安・ドル高水準を付けるなど、日本企業にとって海外物件の取得は割高な状況にある。ただ、伊達美和子社長は「年間賃料収入を物件取得価格で割った投資利回り(キャップレート)は現地で上昇傾向にある」と指摘する。

背景にあるのが、米連邦準備理事会(FRB)による積極的な金融引き締めだ。資金の調達環境が悪化し、不動産サービス大手のCBREの大久保寛リサーチヘッドは「欧米の投資家の一部が米国の不動産投資に慎重な姿勢に転じている」と指摘する。

ジョーンズラングラサール(JLL)によると、22年1~6月のアメリカ大陸の不動産投資額は前年同期比42%増えたが、森トラストは「今夏以降は買い控えが目立ち、一部で物件の価格下落もみられる」という。

ワシントンなど米国の主要都市のオフィス空室率は10~20%と相対的に高い。新型コロナの影響で在宅勤務も普及したためだが、森トラストの藤井俊之・投資事業部専門部長は「業界や業種によって濃淡がある」と指摘する。同社は3月にバージニア州北部で購入したオフィスビルを含め、成長が期待されるIT(情報技術)やライフサイエンス関連のベンチャー企業などが集まるエリアのオフィス需要は根強いとしている。

森トラストは国内でのオフィスビルやホテルの開発・運営以外の事業多角化を背景に、16年に米国に現地法人を設立した。第1弾の海外投資として、17年には米ボストン市内で2棟のオフィスビルを約750億円で取得。19年にはシリコンバレーにあるサンノゼ市でオフィスビルを購入し、取得額は約500億円と当時、日本企業によるシリコンバレー地域での不動産投資として最大規模とされた。

国内の不動産会社では三井不動産が今後3年ほどで過去最大級となる7000億円の海外投資を実行する。25年までに米ボストンなどで約4700戸の賃貸住宅を建て、世界で住宅やオフィス、商業施設など幅広く投資する計画だ。三菱地所も今後は年2000億~2500億円を投じる方針を持つ。

森トラストの22年3月期の連結決算は、売上高に当たる営業収益が前の期比3%増の2588億円、純利益が14%増の403億円だった。売上高が三菱など財閥大手に比べて1兆円以上小さいことを考慮すると、近年、海外投資の積極姿勢が目立つ。伊達社長は「今後も厳選した物件投資は続け、米国以外での海外投資も視野に入れる」と話す。

低金利を追い風に積極投資した東京都心の大型オフィスビルの賃料収入などに支えられ、日本の不動産大手は近年、業績が安定。三井不動産は22年4~6月期の連結純利益が前年同期比54%増の529億円と同期間で過去最高を更新した。日本を除く、世界的な金融引き締めで海外勢の不動産投資意欲が減退しつつある中、資産性の高い海外の物件売買で、財務面が強固な日本企業は「買い手」として存在感を高める可能性もある。

(原欣宏)