「放置年金」5年で7割増2400億円 運用機会111万人逃す 転職時手続き忘れ、現金で管理

【この記事のポイント】
・煩雑な年金資産移管手続きで放置される年金が7割増2400億円
・転職などで確定拠出年金の加入資格を失った人などが111万人
・終身雇用が崩れ、雇用の流動性が高まっていることも背景

転職時に必要な手続きをしないために現金のままで管理される年金資産が増えている。こうした「放置年金」は約2400億円にのぼり、5年間で7割近く増えた。企業が運営する確定拠出年金(DC)の加入資格を転職などで失った人などが対象で、7月末時点で111万人いる。長期的には運用の機会を逃すことになり、老後資金の確保に影響が出る可能性がある。個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)に移しやすくする制度の改善などが急務となる。

従業員が自ら投資商品を選んで運用する確定拠出年金を導入する企業は増えている。従業員が転職したり退職したりすると、その企業が運営する確定拠出年金の加入者資格を失う。次の勤め先に移る際などに必要な手続きをしないと、年金資産が運用されず、国の機関が現金のままで管理する。

こうした放置年金は、国民年金基金連合会が管理している。2021年3月末で対象者は約99万5千人、金額で2395億円。直近では111万人に増え、金額もさらに増えている公算が大きい。企業型の確定拠出年金の加入者は全国に780万人超いる。その1割強に当たる111万人の年金資産が、現金のまま放置されている格好だ。

単に現金で置いておくと手数料を差し引かれる。国の管理に変更する費用(4348円)を取られ、毎月52円の手数料も引かれる。長期的にみて、株式や債券での運用機会を逃していることにもなる。

放置年金は「転職の忙しさで手続きを忘れていた」「何をすればいいか分からず放置していた」といった理由で増え続けている。一つの会社に勤め続ける終身雇用が崩れ、雇用の流動性が高まっていることも背景にある。

転職先が確定拠出年金を導入していれば、資産を移して運用し続けることができる。転職先に同様の確定拠出年金がなければ、個人型のイデコに加入して資産を移す手もある。また、資産が少額などの条件を満たしていれば脱退一時金として受け取ることもできる。

しかし、周知が進まないのが課題だ。国民年金基金連合会は年に1回、対象者に手続きをするよう通知書を送り、専用のコールセンターも設けてはいる。企業側の説明が不十分との指摘もある。

10月からは企業が運営する確定拠出年金の加入者がイデコと併用しやすくなる。現制度では企業が規約を変更する必要があるが、10月からは規約変更なしで併用できるようになる。イデコとの併用が増えれば、転職や退職で加入資格を失った際の受け皿は広がる。

確定拠出年金を巡っては、運用商品が定期預金などの元本確保型に偏っている点も課題になっている。21年3月時点で全体の約45%を元本確保型が占める。ごくわずかな金利収入しかない元本確保型で運用していては資産はほとんど増えない。

政府は年末にも資産所得倍増プランをまとめる考えだ。放置年金の問題を解決しないままだと、資産形成に資する税優遇などの制度を拡充したとしても効果は薄れる。

確定拠出年金は会社を移っても年金資産を持ち運びできる利点がある。このまま年金資産を移す手続きが煩雑だと、現金として放置される年金資産は増え続ける。制度の穴をふさぐ対策が問われている。