街づくりを担う華やかな業界イメージに加え、同じく給与水準の高い総合商社などに比べて残業が少ないとされるからだ。ところが若手社員や採用担当者に聞くと、意外にも日々の泥臭い仕事ぶりがみえてきた。
「ビル1つ建てるだけで街の人の流れをガラッと変えられる影響力に憧れた」。あるデベロッパー大手に勤める新卒入社2年目の山口優香さん(仮名)は、自身の学生時代をこう振り返る。
幼少期から東京都渋谷区に住んでおり、商業施設の「渋谷ヒカリエ」や「MIYASHITA PARK(ミヤシタパーク)」が開業を迎えるたび、これまで閑散としていたエリアが一気に活気づく様子を間近で見てきた。就活ではコンサルや航空など5社から内定を得たが、「転勤が少ないことも魅力だった」と今の勤め先に入社を決めた。
山口さんは現在、顧客の所有する土地やビルの新しい活用法を提案する営業担当として働く。「この場所はオフィスに向いていない。住宅にするならば単身用かな」といった具合に「周辺環境の特徴をみながら、あれこれ想像を巡らせるのは楽しい」。
「竣工間近の案件を抱えていると、月100時間近く残業する部署もある」というが、山口さん自身は毎月20~30時間ほどの残業に抑えている。日々の予定は午前中の社内会議に出席した後、昼すぎからは顧客との商談で外出することが多い。2週間に1回ほど物件の視察にも出かける。
「ホワイト」印象根強く
デベロッパー業界に憧れる学生は多い。就活支援会社のリーディングマーク(東京・港)が東大や早慶など難関大に通う学生を対象にまとめた2023年卒の就職先人気ランキングでは、三菱地所など大手5社が上位50位以内に入った。
なぜ人気なのか。リーディングマーク採用支援事業部の石沢知樹事業部長は「ホワイト企業の多いイメージが根強いため」とみる。「土地の再開発には利害関係者との調整が求められるため、周りとの調和を大事にする朗らかな人が職場に多いという印象を持たれやすい」(石沢氏)。さらに、「大手だと30代で年収1000万円を超える待遇の良さも就活生には魅力的に映る」と分析する。
他の人気業界よりも新卒採用が少ないことも入社の難易度を高めている要因だとの見方がある。たとえば例年数百人を採用するメガバンクに比べ、4月に入社した三菱地所の総合職は42人、住友不動産は21人にとどまる。
華やかなイメージを抱く就活生は多いが、山口さんは「泥臭い仕事も実は多い」と明かす。顧客から既存物件の新しい活用の仕方に関わる相談を受けると、社内やグループ会社で対応できる人材を探す段取りが必要になる。
「若手なので社内外に人脈がない。他の部署の同期に頼んで先輩社員をつないでもらい、3人以上を経由してようやく担当者にたどり着くこともある」(山口さん)。日ごろから人脈を広げられるよう、週に何回もある飲み会への参加も欠かせないという。
協業パートナーの多い街づくりには、あらゆる人の意見をまとめ上げる調整力も問われる。こうした緻密な過程を学生に体感してもらえるよう、三井不動産は夏と冬に開催するインターンシップ(就業体験)に力を入れる。
オフィスや商業施設が入る複合ビルの開発について学ぶコースでは、実際に街歩きをして開発予定地の近辺を実地調査する。「近くにどんな飲食店が並ぶのか」「地元以外のナンバープレートを付けた車も走っているのか」「昼と夜で街にどんな雰囲気の違いがあるのか」といった情報を集めるところから開発プランを考える。
街づくりには地権者や行政側の合意も欠かせない。インターンでは、社員を行政担当者などに見立てた模擬協議会も実施する。三井不動産人事部の成相海太主事は「キラキラしていると思われがちな業界だが、実地調査や行政協議など泥臭い仕事が多い。そうした細かい業務も体験してもらい、学生とのミスマッチを防ぎたい」と語る。
実際の仕事でも、入社2~3年目でゼネコン会社や設計会社との協議を回す役目を任される。「年齢の離れた人からも信頼を得ながら物事を前に進められるコミュニケーション能力が重要になる」と成相氏は説明する。
ときにはデベロッパーとして実現したい開発計画が地権者に受け入れられない場面もある。「『しょうがない。君になら任せるよ』と最後に思ってもらえる人柄も重要だ」(東急不動産人事部の熊谷悠樹課長補佐)。
内面からにじみ出る学生のキャラクターをつかめるよう、東急不動産の採用選考ではエントリーシートの提出とともに自己アピール動画の提出を求めている。自身のキャッチコピーや志望理由など1つのテーマについて30秒でまとめてもらう。
人を動かす仕事
「デベロッパーは人を動かす仕事だ。どういうふうに自分の思いを伝えるのか、その雰囲気を見せてもらいたい」と熊谷氏は話す。人柄の良さにとどまらず、「失敗を恐れずに何事にも立ち向かっていけるフレッシュさも大事にしている」と強調する。

デベロッパー各社への企業理解を深めるにはどうすればいいか。ある大手に勤める若手男性社員は学生時代、時間を見つけては物件見学をしていた。各社の代表的な建物を数件見に行くと「その会社の街づくりに対する姿勢や、開発のうえで大事にしているポイントが見えてくる」。
採用面接では印象に残った物件を問われることが多いため「問題意識を持って見学することが重要だ」とも話す。「昼の時間帯にエレベーターがなかなか降りてこなかった。ビルの各フロアでお弁当を販売するなどソフト面を強化する必要がある」など、自分の感性を生かしたアイデアと合わせてアピールした。
人気の高い業界ゆえにSNS(交流サイト)などにはステレオタイプな情報があふれる。社員訪問をするなど現場の生の声を聞いて、自分に適した会社なのかじっくりと見極めていきたい。
(石崎開)

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