「真岡の工場がなくなります」。2021年6月4日の昼すぎ。栃木県真岡市で車部品の製造装置を手掛けるアオキシンテック社長の青木圭太にホンダ社員から電話がかかってきた。電話を切った1時間後、ホンダはエンジン部品製造の真岡の工場を25年に閉鎖すると発表した。「会社が潰れる」。青木は絶望の淵にたたき落とされた。
布石はあった。その2カ月前、ホンダ社長の三部敏宏が「40年脱ガソリン車」を宣言していたからだ。アオキはエンジン部品用装置が主力。ホンダ向けは直近のピーク時で売上高24億円のうち半分強を占めた。
存続のため青木は自ら営業トップとなり全国各地に電話したり駆けずり回ったりした。やっとの思いで得たのが人気カップ焼きそば「ペヤング」のかやくなどを自動で詰める装置の受注だ。食品向け初の大型案件だ。
「変えるより変えないでいる方がずっと怖い」。21年末、東京・南青山本社とオンラインで開かれた主要部品メーカーの労働組合トップらとの会合で三部はこう語りかけた。
取引先の反応は様々だ。ある部品メーカーは「三部は脱エンジン車の覚悟を部品会社にも求めた」と受け止めた。ホンダ系部品のエイチワン社長の金田敦は「電気自動車(EV)商品が増えるのは歓迎だ」と話す。一方でエンジン部品中堅の首脳は不安を隠さない。「もう青山(ホンダ)には頼るなということでしょう」とため息をついた。
部品不足での減産や原材料価格の高騰で部品会社は苦境だ。上場するホンダの持ち分法適用会社5社中3社は22年4~6月期の営業損益が赤字に転じた。
だが脱炭素の流れは確実に強まる。苦しい中で新機軸を打ち出せるかが勝負の分かれ目だ。
ホンダ系でエンジン部品を手掛ける武蔵精密工業は、中国比亜迪(BYD)にサスペンション向け供給を始めた。社長の大塚浩史は「有望株として目を付けていた」と明かす。BYDは今やEVメーカーとして米テスラに迫る勢いだ。
武蔵精密はホンダ創業時からの取引先でかつてはホンダ向けが8割もあった。今はイスラエルなどの新興企業に取引先を拡大。22年4~6月期に比率は4割まで下がった。大塚は「既存の枠組みは変わる。新興メーカーにも販路を広げる」と話す。
ホンダの取引先は5次までだけで全国に約1万社もある。脱ガソリン車の実現に向けケイレツも試される時だ。(敬称略)

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