理由は7月下旬に公表された23年の金融政策決定会合の日程。普通は中旬に開く3月会合(22年は17~18日)が9~10日と早めに設定された。
来年3月20日に新総裁・副総裁就任も
実は、現総裁の黒田東彦氏と副総裁である雨宮正佳、若田部昌澄両氏の任期満了時期にはズレがある。前者が23年4月8日で、後者は3月19日。08年に人事の国会同意をめぐる混乱から正副総裁の就任日がズレたことが、今でも影響している。ただ黒田氏が退任を早めれば、次の総裁と副総裁の就任を3月20日にそろえられる。23年3月の決定会合を早めに終えてしまう日程の決定は、そのための環境整備の一環とも読めるのだ。
同様のことは黒田氏が総裁になった13年にもあった。4月8日まで任期があった白川方明総裁が前倒しで退任。黒田氏は2人の副総裁(中曽宏氏と岩田規久男氏)と同時に3月20日に総裁に就いた。
次の日銀首脳部も様々な課題を抱えそうなだけに、一体として走り出した方が印象がいいのは事実。そうした観測が広がること自体、総裁人事への関心が強まってきた証拠だろう。
日銀OB「本命雨宮氏、対抗中曽氏」
「雨宮現副総裁の可能性が50%、中曽前副総裁が30%、その他が20%」。次期総裁に関するある日銀OBの予想である。「本命雨宮氏、対抗中曽氏」というわけだ。確率に関しては違った見方もあるだろうが、ともに生え抜きでナンバー2を務めた経験を持つ両氏が有力候補である点に異論は少ないようだ。
次のトップは日銀出身者との見方が多いのは、財務省OBの黒田氏が再任によって10年も総裁を務めた後だからだ。首相を退いた後も影響力を持ち続けた安倍晋三氏は日銀出身者の起用に消極的ともいわれたが、銃撃され死去した。岸田文雄首相は、7月の審議委員人事でリフレ派の片岡剛士氏の後任に非リフレ派と目される岡三証券の高田創氏を起用した。次の総裁もリフレ派起用は考えにくそうだ。これらの要素も日銀OB起用説を後押しする。
関心を集める雨宮氏と中曽氏。いずれも東大経済学部卒の2人は実は好対照なタイプだ。
1979年日銀入行の雨宮氏は日本を代表する金融政策のアーキテクト(設計者)。課長、局長、理事、副総裁として金融政策の立案や決定を担い続けた。量的金融緩和(2001年)、包括緩和(10年)、異次元緩和(13年)、マイナス金利(16年)、長短金利操作(同)。デフレと格闘し、数々の金融政策のイノベーションに関わった。
1978年入行の中曽氏は、課長時代に金融政策と並ぶ日銀の仕事である金融システム安定策を担当。90年代後半の日本の金融危機への対処に奔走した。局長時代はマーケットの修羅場に身を置き、5年を超える長期間、金融市場局長を務めた。2006年の量的緩和解除、08年のリーマン・ショック対応などで実績を積んだ危機管理の専門家だ。
好対照の2候補、副総裁人事にも影響
雨宮氏は国内人脈が豊富。政官界に太いパイプを持ち、「雨宮ファン」は多い。一方、中曽氏は海外に広い人脈を持つ。06~13年に主要国中央銀行の市場担当幹部が集う国際決済銀行(BIS)市場委員会の議長を務めた。国際担当の理事にも就いた。イエレン米財務長官、ブレイナード米連邦準備理事会(FRB)副議長らとは近い関係にある。
2人が好対照である点は、財務省OBの起用が予想される副総裁人事にも影響する。雨宮氏が総裁なら、国際派である財務官経験者が副総裁として補佐する可能性がある。逆に中曽氏がトップの場合、ナンバー2は国内派である財務次官経験者の方がバランスがいい。

「次の日銀首脳部は大変だ」と有力財務省OB。インフレの高進か物価低迷への逆戻りか、物価情勢の不確実性は大きい。主要国の景気が後退に陥るリスクも指摘され、市場混乱の恐れもある。そうした中、副作用が増す異次元緩和の修正や正常化にどう取り組むか。デジタル通貨の導入問題や気候変動対策といった新たな課題への対応も重みを増す。
総裁の任期は5年。波乱が多そうな次の5年に「物価と金融システムの番人」を率いるのにふさわしいのは誰か。岸田首相の選択は、経済や市場そして私たちの生活も左右する。
(編集委員 清水功哉)

コメントをお書きください