日本株、迫る「不都合な円安」 外国人離れで150円接近も

物価高の国に暮らし、物価低迷の国に投資しても割に合わないからだ。24年ぶりの円安で米国保有の日本株の評価額は急減。米金融市場の混乱が深まれば米国など海外マネーの「帰還」による円売り・株売りの連鎖が加速しかねない。日本株に不都合な円安が迫る。

 

5日の日経平均株価は下落した。野村証券の須田吉貴氏によれば米10年物実質金利と米サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況感指数から割り出した米S&P500種株価指数の理論値は3700台(2日は3924)だ。

S&P500のリスクプレミアムは8月のジャクソンホール会議以降、年2.55%から2.72%に上昇したが、米金融危機直前の2007年12月並みに割高感が強い。

見逃せないのは外国人の長期的な運用成績の悪化による日本株離れだ。

米国人による日本株投資の実質的なパフォーマンスを測るため米消費者物価指数(CPI)で調整した「実質ドル換算日経平均」を計算すると00年1月比で22年7月は35%下落。名目のドル換算日経平均は1割強上昇したが、CPIが急騰し割り負けした。

日本人にとって「実質円換算ダウ工業株30種平均」は3.6倍。日本のCPIはほとんど上がらず名目円換算ダウは3.7倍になった。おいしい投資先だった。「物価水準をみて投資先を決めるわけではない」(国内大手機関投資家)が、生活実感が投資行動に潜在的に働いているとみられる。

 

円安も米国人には逆風だ。過去10年「円安=外国人売り」の傾向があるが今年は顕著だ。四半期末の3、6月に円相場は前月比7円前後の円安・ドル高になったが、海外勢の月間売越額はいずれも1兆2千億円前後に膨らんだ。円安と外国人売りが3度シンクロすると1ドル=150円接近の可能性も否定できない。

転機は16年前後にあった。黒田東彦・日銀総裁による2%物価目標の早期実現公約が頓挫し日米のインフレ格差は拡大に転じた。企業統治指針の適用も始まったが、外国人は売りに転じた。形式主義化を見抜いていたのだろう。自社株買いと日銀の上場投資信託(ETF)買いは外国人に売り場を提供した。

米国による日本株保有残高は21年末時点で1兆800億ドル(当時の為替レート換算、円ベースだと124兆円)。年初来の円安や株安で2割前後目減りしたとみられる。

米国人売りが反転するには賃金上昇によるインフレが必要だが、簡単ではない。モルガン・スタンレーMUFG証券の山口毅氏は「賃上げは広がっていくだろうが、来年は世界経済減速との綱引き」とみる。

企業統治改革について15年当時、バリュー投資の権威であるブルース・グリーンウォルド・米コロンビア大学教授は日本経済新聞の取材に「株主還元だけが重視されがちな米国型を必ずしも模倣する必要はない。新産業の育成につなげてほしい」と語った。日本企業が人的投資を増やし本業の強化・拡大による自己資本利益率(ROE)の向上という基本にどれだけ本気で取り組むか、だ。

(日経QUICKニュース 編集委員 永井洋一)