港湾区域の最後の土地売却が8月下旬に決まり、住宅区域も含め全ての土地の分譲が完了した。赤字見込みだった分譲に関する市の収支は一転して黒字化。1994年の着工から28年、かつて分譲が進まず「お荷物」とも呼ばれたアイランドシティを救ったのは、ネット通販の拡大を背景にした物流施設の逼迫だった。
アイランドシティの開発にかかる総事業費は福岡市と国、第三セクター「博多港開発」の工区を含め3940億円。このうち市が債券を発行し、土地の分譲収入で資金を回収する工区の事業費は1263億円と想定した。バブル崩壊後の不況や2008年のリーマン・ショックなどの影響で土地の分譲は進まず、市は12年の段階で収支を160億円の赤字と見積もった。

だが8月26日の市の最新の試算では、分譲収入の総額は12年の見通しを350億円上回る1771億円。資材高や消費増税の影響で事業費も1398億円に膨らんだが、債券の利払いを差し引いても収支は150億円の黒字に転じた。子供向け政策のために100億円の基金をつくる余裕もできたほどだ。
アイランドシティの事業が上向いたのは、12年以降に日本経済が回復した以上の理由がある。福岡周辺で、大規模物流施設の需給が急速に逼迫したことだ。

福岡は大消費地を抱える割に物流施設数が少ない状況が長らく続いてきた。24年にトラックドライバーに対する残業規制の猶予が終了し、長距離輸送が一段と困難になることが予想されることも背景に、物流施設の建設ニーズが一気に高まった。
不動産サービス大手のCBREによると19年以降、福岡圏では複数テナントが入居する大規模物流施設で空室ゼロの状態が続く。同社が調べたマーケット賃料によると1坪(約3.3平方メートル)あたり3300円と5年で2割も上昇した。

アイランドシティの港湾区域の土地の落札額をみても、16年の分譲決定時の価格は1平方メートルあたり10万~12万円だった。ところが21年以降の案件では倍以上となり、東京建物などが30万円で落札。8月に西日本鉄道が落札した最終区画も23万円台だった。
企業はそれだけ払ったとしても十分に採算がとれると見込む。福岡地所は16年と22年の2度にわたり土地を落札したが、16年は1平方メートルあたり10万円だったのに対し、22年は20万円と倍に膨らんだ。同社は「博多湾エリアで1万坪以上の大型物流施設を確保できる広さがアイランドシティにあった」と話す。

アイランドシティは住宅区域の人口も7月末時点で約1万3700人に増えた。CBRE福岡支店の伊藤憲一シニアコンサルタントは「都市高速道路が21年に延伸されたため、将来的に交通量がさらに増えても大きな混雑が生じる懸念は少ない」と話す。
鉄道の建設が検討されたこともあったが、機動的に進められる道路整備を優先し、現在では西鉄がバスの営業所を設けている。アイランドシティ中央公園前のバス停からは各方面に1日347本のバスが出ており、天神までは都市高速経由で20分程度で着くという。

着工から30年を前に区切りを迎えたアイランドシティの今後の課題はなにか。都市政策を専門とする西南学院大学の野田順康教授は「東アジアで港湾ネットワークの中心にあるのは韓国の釜山で、博多港はそこへの荷物供給元にとどまっている。博多港の価値を訴えることが重要だ」と指摘する。
住宅区域をめぐっても、児童数の急増で市は24年度にも新たな小学校を開校する見通しだが、長期的に人口流入が続くかは不透明だ。「長い目でみれば東京の多摩ニュータウンのような高齢化への対策も問われる」(野田教授)
事業者への土地引き渡しが完全に終了するのは造成工事が終わる7年後。物流と市民生活、双方の充実という二兎(にと)を追うアイランドシティの取り組みはなお道半ばだ。

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