個人、外貨定期預金が大幅増 ソニー銀行は金利10倍超に

海外の利上げが背景にあり、ソニー銀のドル預金金利は半年で10倍超に上昇した。海外との金利差はなお拡大する見通しで、これに伴い円の先安観も強い。外貨建て資産を持つ個人の動きが広がっている。

「金利収入の面でのメリットはもちろんのこと、金利差を考えるとしばらくは円高もあり得ない」。新生銀の外貨預金窓口を訪れた50代の女性は確信する。新生銀では7月、未経験で新たに外貨定期預金を始める人が2021年の月間平均の8倍に増えた。8月の預金残高は1150億円と2月から65%増えた。新生銀の担当者は「短期間でここまでの大幅な残高の増加は記憶にない」と語る。

外貨定期預金の増加は他の銀行も同様だ。ソニー銀では8月の新たな預入額が2月に比べ1.8倍に増え、ネット専業のauじぶん銀行では8月の預入額(金利優遇キャンペーンの影響除く)が前年同月比4割増加した。PayPay銀行でも外貨預金の残高が増えている。

背景には、海外中央銀行の急速な利上げにより、外貨預金の金利が上昇していることがある。外貨預金の利用者が多いソニー銀ではドル定期預金金利(6カ月物)は足元で2.00%と、2月の0.15%に比べて約13倍に上昇した。新生銀行も1年物や5年物が3.50%と、3月末の1.00%から大幅に上がった。メガバンクの円定期預金の金利が0.002%前後で推移していることを考えると、外貨預金の金利は消費者にとって魅力的に映る。

米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は8月下旬の経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」でインフレ退治のために金融引き締めを継続する方針を改めて示した。9月の会合でも大幅利上げに動くとの見方が強まり、ドル預金金利にも上昇圧力がかかる。

日米金利差の拡大観測は円安の大きな要因にもなる。5日の東京外国為替市場で円相場は1ドル=140円台と、約24年ぶりの安値圏で推移した。円安はドル預金の円換算額を押し上げるため、ドル預金のさらなる増加につながる。

金融の引き締めは米国だけではない。欧州中央銀行(ECB)も7月に約11年ぶりの利上げを決め、9月上旬に開く理事会でも利上げが見込まれる。英イングランド銀行(中央銀行)やカナダ中銀なども利上げを進めている。

一方、日銀は粘り強く金融緩和を続ける姿勢を崩していない。JPモルガン・チェース銀行の試算(加重平均値)によると、日本と世界の政策金利差は8月時点で2.7%台と、2008年11月以来の水準まで拡大している。同行によれば、年内にも3%台まで拡大する可能性がある。

金利差の拡大はヘッジファンドなど投機筋の円売りも活発にする。金利の低い円を借りてきて金利が高い通貨の資産に投資する「キャリートレード」が進みやすい。米商品先物取引委員会(CFTC)の週次統計によると、21年3月以降は投機筋による円の売り越しが続く。米利上げペースの減速見通しが強まった8月初旬にいったん縮小したが、直近の8月30日時点では売越額が5200億円前後と3週連続で増加し、再び増勢を強めつつある。

外貨定期預金の口座を持つ人の間では「貿易赤字を見ると、まだまだ円安に向かう可能性がある」(40代女性)という声も聞かれる。あるネット銀行の担当者は「顧客の間では円安の見通しが当面強い」と話す。

他方で、定期預金よりも短期の売買が多い普通預金などでは、利益確定の外貨売り・円買いも活発だ。外貨預金全体で見ると外貨の売り買いが交錯している。ソニー銀行は6月に外貨預金における為替売買高が月間で過去最高になった。

利益確定の円買い・外貨売りが大きく拡大するときは、投機筋の勢いが強い。米利上げで米景気が減速すれば、23年以降には米金融引き締めが緩まるとの見方もある。日本と海外の金利差が縮小に転じれば、投機筋の円買いが一気に進み、為替相場の円高が加速する可能性がある。その場合、外貨預金が円換算で目減りするリスクもある。

(北川開、四方雅之)