米ネットフリックスや米アマゾン・ドット・コムなど、主要な動画・音楽配信サービスの平均で月937円と英国や米国の6割にとどまる。韓国よりも低く、サウジアラビアやメキシコに迫る水準だ。対ドルで24年ぶりの円安水準となるなか、家電や食品だけでなく幅広い分野で「安いニッポン」の実態が浮き彫りになっている。
動画配信の「ネットフリックス」「アマゾンプライム(プライムビデオ)」「ディズニープラス」「ユーチューブプレミアム」と、音楽配信の「スポティファイ」「アップルミュージック」の計6サービスを対象に、各企業の現地サイトを確認するなどして、安価な有料プランを単月契約した場合の料金を調べた。8月25日時点の各国為替レートで円換算した。
20カ国・地域(G20)のうち、使えないサービスが多いロシア、中国を除く17カ国で平均額を比較した。最も高かったのは英国の1507円で、米国(1479円)とドイツ(1319円)が続いた。最も安かったのはトルコで、174円で英国の9分の1だった。
日本は937円と17カ国中9位で、先進国の主要7カ国(G7)の中では最下位だった。8位の韓国より約40円安く、サウジアラビア、メキシコより約80円高かった。下位にはインド(214円)やアルゼンチン(323円)といった新興国が並ぶ。
サービスごとに見ると日本は全サービスでG7で最も安くなっていた。特にアマゾンの動画は月500円と、インドネシアやメキシコ、南アフリカを下回り、17カ国中5番目に安かった。
国際物価比較では、日本は米マクドナルドの「ビッグマック」の価格を比較する英エコノミスト誌の「ビッグマック指数」でも53カ国・地域中41位と、世界の中でも割安感が出ている。円安を背景にデジタル分野でも各国と価格差が鮮明になっている。海外企業にとっては収益減につながるため、今後は国内で各サービスの値上げにつながる可能性もある。
アマゾンの場合、日本で2019年に月400円から値上げしたが、欧米との差は大きい。同社は22年2月に米国で14.99ドルと2000円超まで引き上げ、欧州各国でも9月の値上げが明らかになっている。視聴できるコンテンツや同時に利用できる電子商取引(EC)のサービスに差はあるものの、各国と比べて日本の割安感は強い。
ネットフリックスも21年に日本で880円から990円に値上げしたが、依然としてサウジアラビア(1163円)より安い水準にある。高画質や複数端末で視聴できる上位プランに限れば、米国ではこの2年で2度にわたり2700円超まで値上げされた一方、日本では1980円のまま据え置かれている。
音楽配信サービスでも、先進国と比べると日本の割安感が目立つ。スポティファイとアップルミュージックの料金は980円で同一だが、G7では全て1000円を超えていた。
インターネットを介したコンテンツ配信では、通信環境が整えば容易に多国籍でサービス展開できる利点がある。今回の6サービスも、百数十カ国で利用が可能だ。17カ国で最高額と最低額を比べると、アマゾンは34倍、スポティファイやディズニープラスは10倍の差があった。各社が提供する国の状況に合わせて、綿密に価格を設定していることがうかがえる。
日本は1人当たりの国内総生産(GDP)で3万9340ドルで世界28位と、G20では7番目に高い。それでも今回の調査では1人当たりGDPで下回る韓国、イタリアよりも安い結果となった。デフレが長く続いた状況や競争環境の違いなどから、グローバルの商品やサービスの料金が安い水準で提供されることが定着しつつある。
米ガートナーの藤原恒夫アナリストは「サービスの需給以外にも、各国民の支払い能力に応じて企業側が明確な価格戦略を打ち出している。最低賃金を基に算出されることが多く、欧米に比べて長らく賃金が停滞している日本では、ユーザーが値上げに耐えられないと各社が判断しているのだろう」と指摘する。
米アップルのスマートフォン「iPhone」も国内の価格は世界で最も安い水準にあったが、7月には一斉値上げを実施している。藤原氏は「10万円を超える製品では、急速な円安の影響を価格に反映できている。今後はサブスクリプション(定額課金)サービスでも円安や物価高の影響は避けられないが、各国に比べて割安感のある状況は大きく変わらないだろう」としている。
(伴正春、水口二季)

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