Amazon、処方薬ネット販売に参入 中小薬局と患者仲介 【イブニングスクープ】

中小薬局と組み、患者がオンラインで服薬指導を受ける新たなプラットフォームをつくる方向だ。利用者は薬局に立ち寄らずに薬の配送までネットで完結できる。店頭販売を重視する日本の調剤薬局ビジネスの転換点となる。

複数の関係者が明らかにした。国内で電子処方箋の運用が始まる2023年に本格的なサービス開始をめざしている。当面はアマゾン自体が薬局を運営して直接販売するわけではなく、在庫などは持たないもようだ。アマゾンは今後、国内の中小の薬局を中心に参画を呼びかけ、システムを提供する。

患者はオンライン診療や医療機関での対面診療を受けた後、電子処方箋を発行してもらい、アマゾンのサイト上で薬局に申し込む。薬局は電子処方箋をもとに薬を調剤し、患者にオンラインで服薬指導する。その後、アマゾンの配送網を使って薬局から薬を集荷し、患者の自宅や宅配ロッカーに届ける仕組みを検討している。

医療機関や薬局まで足を運び、それぞれで順番を待つ必要がなくなるため、持病の薬を定期的に受け取る患者らへのメリットが大きい。

アマゾンジャパン(東京・目黒)は取材に「コメントは差し控える」と回答した。

オンライン診療やオンライン服薬指導を巡っては、新型コロナウイルス禍の特例措置で初診や初回指導でも利用可能になった。今春、そうした特例が恒久化し、電子処方箋の運用開始も決まったことで、ネットで完結したサービスが可能になった。

処方薬は公定価格のため、送料以外の患者負担は大きく変わらない。自宅との近さなどをもとに、アマゾン側で患者のニーズに合わせた薬局を紹介するとみられる。

国内の大手薬局は独自アプリなどでオンライン服薬指導に取り組んでいる。オンラインで診療や服薬指導できるシステムをメドレーなどが開発し、医療機関や薬局への導入実績がある。アマゾンと同様のサービスは日本企業も提供可能だが、多くの利用者を抱えるアマゾンとの競争を迫られる。

現在、薬局が薬を届ける場合、即日配送で300円程度かかるケースもある。大量の注文をさばくアマゾンは、配送業者の大口割引を利用するなどし、配送料を低く抑えられる可能性もある。

関係者によると、アマゾンのシステムでは健康データの利用を服薬指導などにとどめる方針だ。

アマゾン参入は薬局経営を揺るがしかねず、業界再編の契機になるとみる関係者もいる。中小薬局にとってはアマゾンに参加することで業務のデジタル化を進めることができ、新たな顧客を見つけるビジネス機会が得られる。アマゾン側にはシステム利用料などを支払うとみられる。

さらなるオンライン診療の受け皿拡大が欠かせない。現状は多くの医療機関がオンライン対応に消極的で、患者の利用も限定的だ。

診療報酬が対面診療よりも低く設定されていることが要因となっている。新たな設備投資を敬遠するケースもある。消費者にとって身近なアマゾンの処方薬販売参入をきっかけにオンライン診療・服薬指導のニーズが高まれば、海外に比べて遅れている医療のデジタル化の後押しになる。

日本には20年度時点で約6万の調剤薬局がある。小規模の薬局が処方箋を囲い込みやすい病院前などに乱立し、過去10年間で約1割増えた。オンラインで調剤サービスを受けられるようになれば、立地に依存した従来型の薬局は厳しい競争にさらされる。アマゾン参入という「黒船」を、各薬局が変革を進める契機とする姿勢が欠かせない。

政府の規制改革推進会議は厚生労働省に対し、薬局の調剤業務の外部委託を認めるよう繰り返し求めてきた。厚労省や日本薬剤師会は消極的だ。規制改革で薬剤師業務を効率化し、特色あるサービスを展開できなければ、従来の薬局市場は大きな影響を受けることになる。

米アマゾンは18年にオンライン薬局大手の米ピルパックを買収し、20年11月にはこの事業をもとにオンライン薬局「Amazon Pharmacy(アマゾン・ファーマシー)」を立ち上げ、米国で処方薬販売に本格参入している。