株式交付で「私的節税」 M&A新手法、資産管理会社に利用 専門家の是非割れる

専門家の意見は「制度の乱用とまではいえず問題ない」や「制度趣旨から外れており税制改正が必要」などと分かれており、議論を呼びそうだ。

 

「私的な節税策にみえる」と専門家が注目するスキームがある。本来は企業が事業再編しやすくするための株式交付制度を使い、オーナーが個人保有する株を資産管理会社に移すものだ。上場企業では7月末までの判明分で、ティーケーピー、coly(コリー)、G-FACTORYアールエイジオージックグループの5社の例がある。

スマートフォンゲームを配信するコリーは6月に実施した。21年上場の同社は、創業オーナーの姉妹2人が個人で同社株を32.55%(議決権ベース)ずつ計65.11%持っていた。今回は株式交付制度を使い、このうち計50.56%分を、2人が折半出資する資産管理会社に移管した。

株式交付は、自社株を対価として他社を買収できるM&Aの新たな手法だ。類似の「株式交換」もあるが、完全子会社化する場合に限られるなど使い勝手の悪さも指摘されていた。株式交付は50%超の部分買収にも使えるため、「大型買収でも活用できて有意義だ」(M&Aに詳しい弁護士)ともいわれる。

税メリットもあり、買収される会社の株主は株式譲渡益への課税を繰り延べられる。コリーのオーナー2人による株の売り出し価格は総額41億円。もし同制度がなければ、譲渡益に約2割の税率で所得税などがかかった可能性がある。

配当非課税に

株を個人ではなく資産管理会社で持つ手法は、一般的な節税策として知られる。例えば持ち分3分の1超の国内関連法人からの配当は一定の条件下でほぼ全額が非課税(益金不算入)になる。オーナーが個人として配当を受ければ所得税などがかかるが、資産管理会社が受け取れば税金を抑えられる可能性が高い。

資産管理会社にたまるお金は、資産運用などで様々な節税メリットも享受できる。コリーは現在無配だが、将来は配当を実施する可能性もある。

株式交付制度は本来、企業の成長につながる事業再編を促す制度だ。だがオーナーの株を資産管理会社に移すのに使われるのは、私的な節税策を後押しする側面が強いようにみえる。

5社は適時開示で資産管理会社による資料も示した。だがオーナーの保有株を資産管理会社に移管する目的については、実質的な説明がほとんどない。

日本経済新聞は5社に対し、書面で目的などを質問したが、「節税目的」と認めた社はなかった。

コリーは「長期安定的な株主構成を構築し持続的な成長に寄与する」などとし、オーナー2人の私的な節税目的ではないと説明。アールエイジは「経営の不安定化を回避し、弊社株主の皆様の利益に資するようにするという観点」とした。

一方、企業再編などの税務に詳しい梅沢謙一税理士は、こうした活用について「本来の制度趣旨に沿っていないのではないか」と指摘する。ある上場企業の財務担当役員も「これらの事例には違和感がある。もし資産管理会社に非課税で配当をプールするスキームを組むのに使われ始めたら、やり過ぎだ」と話す。

税制改正を検討すべきだとの声もある

合理性など焦点

仮に国税当局がこのスキームを調査するなら、どこに注目するか。国税当局で長年、企業再編などの税務調査をした大山清税理士は「極端な租税回避行為を否認する規定(法人税法132条の2など)を視野に調査を行うだろう」とみる。その際の注目点は「合理的な理由や租税回避の意図の有無などだ」という。

一方、元国税庁キャリアの木村浩之弁護士は「法律上、オーナーから資産管理会社への株式移管には使えないなどの制約はない。法律の穴を突くあざとさがあるとは思わない」と指摘。「税務調査で否認され申告漏れなどが指摘されるリスクは低いだろう」と話す。

M&A助言のレコフによると、株式交付M&Aは制度開始から7月末まで計16件。このうちオーナーの資産管理会社が絡むものは5件で一定割合を占める。公認会計士・税理士の森将也氏は「今後も同様事例が出る可能性がある」とみる。

株式交付制度は経産省が長年、導入を望んできた。担当者は「(日本企業は)現状維持やリスク回避の傾向が強く制度的なイノベーションが起こりにくい。まず制度を形にしないと大きな動きは作れない」と話す。今回のような利用を想定していたかについては「コメントしない」とした。

財務省で長く税制改正に携わった朝長英樹税理士は「租税回避行為として否認されるリスクは低いが、節税の目的ならば好ましくないのは明らかだ。株式交付の特例は要件が緩くなっていることもあり、税制改正が必要か検討すべきだ」と話している。

(宮川克也)