かつての住宅不足の解消を目指す政策が人口減少社会でも維持されてきたことで、家余りがさらに深刻になる。すでに約849万戸ある空き家問題(総合2面きょうのことば)が一段と拡大しかねない危機に直面している。
総務省の住宅・土地統計調査によると日本の住宅総数は18年時点で約6241万戸で、野村総合研究所は23年に最大6546万戸へ増えると見込む。13~17年度は住宅の取り壊し(除却)が早いペースで進んだとみられるが、「除却が08~12年度水準に低下すると住宅過剰は一気に顕在化する」(同社の大道亮氏)。
国立社会保障・人口問題研究所は、23年は日本の世帯数が5419万とピークを迎え、減少が始まる節目とみる。人口が減っても長寿化や生涯未婚率の上昇から一人暮らしが広がり、世帯数だけは増えてきたが、転機が訪れる。京都大学建築学専攻の三浦研教授は「2000万、3000万と住宅の余剰が積み上がりかねない」と警鐘を鳴らす。
戦後から1960年代まで深刻な住宅不足に悩んだ日本は、立法措置まで講じて住宅新築を進めた。その結果、73年には全都道府県で住宅不足が数字上は解消したが、年百数十万戸の高水準の新築が2000年代まで続いた。三浦氏は「高度成長の残滓(ざんし)だ。人口減が推計されても新築中心の住宅産業を育成する経済政策は大きくは変わらなかった」と指摘する。
野村総合研究所は23年を境に空き家も急増すると見込む。除却水準が低下した場合、2038年に空き家は約2303万戸に達する。需給が緩むうえ、「質より量の供給」を続けたツケも大きい。

21年に閣議決定した住生活基本計画によれば、18年時点で居住世帯がある住宅は約5360万戸ある。うち約700万戸は耐震性が不足し、新耐震基準の家でも約3450万戸は省エネルギー基準を満たさない。基本的性能が劣る物件は敬遠され、国内の住宅市場で既存住宅のシェアは約14%と、80~90%の米英と大差がつく。既存住宅が低性能・不人気のままなら、空き家の増加に拍車がかかる。

では、人口減時代の家余りにどう対応すればいいのか。解は大きく2つある。
ひとつは既存住宅の有効活用だ。京大の三浦氏は「既存住宅を評価する意識が根付いている欧米と異なり、日本では既存住宅中心の流通に急転換することは簡単ではない」とする一方で「日本では一部の高齢者や一人親世帯が住宅確保に苦労する例がある」と指摘。「行政の内部で住宅と福祉など各分野で情報が共有されない。縦割りの解消が進めば既存住宅の活用の余地はまだある」と分析する。
もうひとつは解体だ。野村総合研究所の大道氏は「解体など新分野でも産業育成を進めるべきだ」と話す。例えば、解体工事会社と空き家の所有者をマッチングするクラッソーネ(名古屋市)は1万件以上の成約実績を持つ。21年には蓄積データを分析し、解体費用を算出するシミュレーターの自治体への提供も始めた。国土交通省の支援事業に2年連続で選ばれ、約30の自治体が導入している。
空き家を解体して更地にすると原則、固定資産税が高くなる。不動産コンサルタントのさくら事務所(東京・渋谷)の長嶋修会長は「国は税制などで個人が解体を進めるインセンティブを整えることも必要だ」と話す。そのうえで、跡地はほかの用途に転用するアイデアも求められる。
国を挙げて住宅リストラに取り組まなければ、余剰住宅は空き家のまま朽ちていく。
(住宅問題エディター 堀大介)

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