「海外大、特別な進路ではない」高際伊都子氏 渋谷教育学園渋谷中高校長 教育岩盤・漂流する入試 識者に聞く

例年10人超が海外大を受験する渋谷教育学園渋谷中学高校(東京)の高際伊都子校長に生徒の意識の変化などを聞いた。

――海外大への進学状況は。

「毎年1学年約200人のうち15人ほどが海外の大学を受験する。2022年春卒は7人がエール大やミネルバ大といった欧米の難関大に進学した。もともとは帰国子女生が大半だったが、最近は海外在住や留学の経験が全くない生徒の志願者が増えている」

「海外進学した卒業生が学校に遊びに来ることが多く、在校生にも特別な進路という意識はない。海外進学が盛んなことを理由に渋谷中高を選ぶ受験生もいる。日本の大学受験とは全く異なる特別な準備が必要なので専門の教員を置いて支援している」

渋谷教育学園渋谷中高の高際伊都子校長

――どのような動機で海外を志望していますか。

「本人が何を学びたいか、どこの大学が自分に合っているのか。米国の優れた宇宙工学やコンピューターサイエンスを学びたいという専門志向や、経済学と物理学を専攻するような『ダブルメジャー』、日本に少ない舞台や演劇に関する学問の探究といったケースがある」

「海外だけに志望校を絞る生徒は少数派で、多くは国立大や早稲田大・慶応大なども志願する。現地での生活や進学費用の問題もあり、悩みながら進学先を決める。海外も選択肢の一つという考え方で、国内の偏差値や難易度の序列は優先していない」

――保護者の意識はどう変わりましたか。

「海外在住経験のある親世代が多くなり、日本式ではない教育を授けようという感覚が少しずつ強まっていると感じる。大きな理由は経済のグローバル化にある。保護者も米国などに行けば全て解決するとは思っていないが、海外に目を背けて生きるのは難しいと考えている」

――日本の入試との違いはどこにありますか。

「例えば米国の大学は高校の成績評価、対外的な活動、エッセー、推薦状などさまざまな項目の総合的な評価。合格の基準が客観的でない。本人が英語を母語としているか、マイノリティーか否かでも基準が変わってくる。日本の入試は背景にかかわらず客観的な公平性を重視する」

「公平性を基軸にした筆記試験中心の日本型入試は安定して人材を育成できる面があり、社会を高度成長に導いた成功体験もある。米国のように明確な合否の基準がない入試を日本の社会が果たして許容できるのか。大きな問いだと思う」