· 

負け組だった日本株 沈むドル建てと「失った30年」

株式相場も円相場も大きく下落した。

こうした反応は、2月24日に始まったロシアのウクライナへの侵攻後の縮図でもある。「7月以降は株高だったのでは」と疑問を抱く人は、騰落率のグラフを見てほしい。

「2.24」後の株、債券、為替、商品の主要な市場の値動きを一堂に集めた「ごった煮グラフ」。底堅い企業業績を追い風に先週末までに8%上昇した日経平均株価は勝ち組に見える。ところがグローバル投資家が神経をとがらせるドル建ての日経平均は逆に9%以上も下げており、信用度が低い世界の高利回り債並みの負け組に沈む。円が対ドルで16%も下げる独歩安を演じたからだ。

日本売りは、需給関係も裏付ける。円が売られただけでなく、外国人投資家は今年、日本株を2兆円以上売り越している。ウクライナ侵攻で激変した世界でも、日本経済の地盤沈下が止まらないとマネーが見透かしたかのようだ。

スタグフレーションと金融危機

グラフを見ると、これから日本を巻き込むだろう2つの危ういシナリオが浮き上がる。1つ目は、物価上昇と景気後退が同時に起きるスタグフレーションだ。ロシアが供給を絞った天然ガスの国際価格は2倍に、暖房油も41%それぞれ跳ね上がり、世界の物価に上昇圧力を加えている。

景気悪化については、銅と韓国株の大幅安がシグナルを放っている。世界の幅広い産業やインフラに使われる銅は、「ドクター・カッパー」と呼ばれ、世界景気の先行きを占ってきた。外需に依存する韓国の総合株価指数(KOSPI)も「ドクター・コスピ」の異名を持つ先行指標だ。

地域別に見ると、欧州株やユーロの下落は戦火に近い欧州が受ける打撃を映す。中国・香港株や人民元の下げは、「ゼロコロナ」政策の悪影響や中国の景気を左右する不動産市況の悪化が原因だ。銅や韓国株の低迷と合わせれば「史上初めての中国発・世界同時不況」というシナリオもちらつく。

2つ目は、金融危機だ。歴史的に米金融引き締めは、危機の引き金を引いてきた。1994年のメキシコ通貨危機、97年のアジア通貨危機、2000年の米ハイテク株バブル崩壊……。

今回も、マネーは脆弱な市場から逃げている。安全な米国債の相場下落が2%にとどまるのに対し、新興国の信用度の低い社債の下落率は9%を超えた。債務の大きさが目立つうえ政局が混迷し、投資家の不安が高まっているイタリアの株は16%下げた。

話題さらった「人とは違う道」

暗号資産(仮想通貨)であるビットコインの46%安は、FRBの引き締めへの決意の鏡だ。市場のインフレ予想とビットコインの価格は連動する傾向がある。大幅安は、パウエル議長の「景気よりインフレ封じ」という意志をマネーが嗅ぎ取ったからでもある。米誌の人気エコノミストランキングで40年以上首位のエド・ハイマン氏は今週、顧客に覚悟を求めた。「金融危機はいつでも起きうる」

市場の読みを共有しているからだろうか。日本企業が8月にかけて実施した投資家向け説明会では、こわごわとした姿勢が相次いだ。日立製作所は、デフレやデフォルト(債務不履行)の恐れがあるので新興国の事業は慎重にするという。東レも世界経済の下振れを前提に、23年3月期の業績を控えめに見積もったと明かした。

だが、存在感を落とす日本企業が萎縮するだけでいいのか。米資産運用大手オークツリー・キャピタル・マネジメントのカリスマ投資家、ハワード・マークス氏が株主なら物言いをつけるだろう。

7月に執筆した顧客向けメモ「人とは違う道」は、市場の話題をさらった。「型からはみ出した行動をとらなければ、人と違う成績はあげられない」。リスクオフの群集心理に潜む死角を突いた。

投資戦略についての意見だが、企業経営にも通じる。横にらみの消耗戦にとどまり、外国企業より豊富な資金を抱えたまま動かない日本企業にはとりわけ響く。

「ブロードバンドって何ですか」

日本が振り返るべきなのは、アジア危機に巻き込まれて破綻の崖っぷちに立った韓国だ。98年に就任した金大中大統領は、財閥が横並びで手掛けていた半導体や自動車などの主要産業を数社に集約し、世界で戦うよう迫った。エンタメ立国の看板も掲げ、輸出を前提とする作品作りを後押しした。

家計債務など問題も抱える韓国だが、ハイテクやエンタメの存在感は日本をしのぎ、日本の3分の1だった1人あたり国内総生産(GDP)も逆転が視野に入る。

変化を支えたのはリーダーの強い意志だった。当時、孫正義氏とビル・ゲイツ氏にブロードバンドの整備を勧められた金大統領は、実行を約束した後に尋ねたという。「ブロードバンドって何ですか」。変化に前のめりの姿勢は、できない理由が優勢になりがちな日本の風土と一線を画す。

他人事のような「失われた30年」ではなく、「失った30年」と呼んで失敗を認めるべきだ。こんな危機感も耳にするようになった。水面下で静かに進んでいた日本売り。見かけの株価回復に安心して変わろうとしなければ、当時の韓国のようにグローバルマネーに追い込まれるかたちで変化を強いられるという警告にも見える。