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リネットジャパングループ社長 黒田武志さん 恩師が導いた起業家人生(3)

ブックオフコーポレーションからのれん分けされて設立した会社は、ブックオフウェーブと名付けた。「ウェーブ」はウェブの意味。だが、創業者の坂本孝氏はインターネットを毛嫌いしていたため、反目した。

私がひそかにネット事業の準備を進めていることが坂本さんの耳に入ると、ものすごい勢いで怒られ「破門」というのです。それでも引き下がれない。岡山から飛んでいきました。その日は坂本さんが沖縄で加盟店を集めたイベントのため出張する予定でした。羽田空港で直談判しようとラウンジに行くと、坂本さんの周りをずらりと幹部陣が取り囲んでいます。

じっと押し黙る坂本さんの胸中を代弁するように、幹部陣から罵声を浴びせられました。「なんでお前は社長の意向に逆らうんだ」と。針のむしろでした。

私も譲れず話は平行線のまま。急いで那覇行きのチケットを買って坂本さんに同行しました。その日は坂本さんと加盟店の人たちとの大事な懇親会。その後にホテルの一室で私が構想するネット販売について坂本さんと幹部が議論すると聞きました。いつ呼び出されてもいいようにと、同じホテルに部屋を取って待機していましたが、いつまでたってもお呼びがかからない。一睡もできないまま朝を迎えました。

翌朝、ホテルで朝食をとっていると、坂本さんが歩いてきました。私は緊張のあまりビクッとしたまま凍り付いてしまいました。すると坂本さんが右手を差し出してきます。「好きなようにやりなさいよ」。そう言って私の手を握りしめると、坂本さんはこう続けました。「出資してほしい比率を言えばいい。応援するから」

その言葉を、私は生涯忘れないでしょう。坂本さんは私の願い通りに10%を出資してくれました。

  もう一つの出会いがネット事業を後押しする。古巣のトヨタ自動車だ。

岡山に倉庫付きの店を借りたものの、ネット事業は遅々として進まない。ネットのために雇った3人は毎日、倉庫を掃除するだけです。「いつになったら始めるんですか!」。3人から突き上げられましたが、それも当然のことです。

そんな時に連絡をいただいたのがトヨタで新人時代に上司だった野萱和夫さんでした。私の構想を聞くと「それならトヨタでGAZOOが始まったから」と言われた。ネット販売の新事業です。早速、担当していた友山茂樹さん(後のトヨタ副社長)を紹介してもらい、「ぜひ一緒にやろう」と言っていただきました。2000年5月のことです。

友山さんからある提案を受けました。8月半ばから大々的にGAZOOのテレビCMを始めるので、それに間に合わせるようにというのです。願ってもないチャンス。その日から、くすぶっていた3人と一緒に突貫作業で準備を進めました。

  坂本氏とトヨタの後ろ盾を得てネットの古本販売は軌道に乗った。

友山さんと二人三脚でGAZOOを育てた豊田章男さん(現トヨタ社長)が岡山の倉庫に駆けつけました。あれは岡山駅前の居酒屋でのことです。お酒の勢いもあってネットで勝負したいという夢を豊田さんにぶつけると、豊田さんはこう言うのです。

「トヨタもベンチャーなんだよ」

過去形ではなく現在形というのが印象的でした。豊田さんの意気を感じました。トヨタも進化し続けなければならない。そんな思いを我々のようなちっぽけなベンチャーと同列で語るのです。思えば「もうトヨタの敷居をまたぐことはあるまい」と覚悟して飛び出したものの、こんな形で古巣とご縁をいただくことになろうとは思いませんでした。

こうして勢いに乗った我々はすぐさま上場を目指すことになりました。そこで待ち受けていたのが、ネットバブル崩壊という悪夢でした。