キャンセル料を払わない客 支払督促や強制執行が可能 ホーム法務Q&A(弁護士・山村行弘さん)

この場合、鍼灸院はキャンセルがなければ得られていたはずの利益(逸失利益)について損害を被ることになります。このような損害を補塡するためにキャンセル料条項を設け、無断キャンセル等の場合にキャンセル料が発生することを明示している事業者も多いでしょう。

このような客(消費者)によるキャンセルは、消費者と事業者との間の契約の解除に当たります。消費者契約法は、消費者が高額な損害賠償義務を負わされることのないように、契約解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害を超える損害賠償を消費者に請求することができないこととしています。不当なキャンセル料は請求できないということです。

ではキャンセル料が適正だとして、鍼灸院はどのようにキャンセル料を請求したらいいでしょうか。まずは、当該客に対して、電話やメール等でキャンセル料の支払いを催促すべきでしょう。このような催促にもかかわらず、客がキャンセル料を支払わない場合は、支払督促の申し立てを行うことが考えられます。

支払督促とは、簡易裁判所の裁判所書記官を通じて相手方に債務を支払うように督促する手続きです。申し立ては通常の訴訟と比較して手数料も安く、郵送で可能で裁判所に出向いたり証拠を提出したりする必要もないので、利用しやすい手続きと言えるでしょう。ただ、相手方が異議を申し立てた場合は、手続きが通常訴訟に移行します。

相手方が支払督促を受け取ってから2週間以内に異議の申し立てをしなければ、裁判所は、申立人の申し立てにより、支払督促に仮執行宣言を付さなければならず、申立人はこれに基づいて強制執行の申し立てをすることができます。

強制執行とは、債務者の財産を差し押さえてお金に換え、債権者に債権を回収させる手続きです。例えば、債務者の銀行預金を差し押さえた場合は、当該口座の預金からキャンセル料を回収することができます。また、債務者の勤務先が分かる場合は給料を差押え、勤務先からキャンセル料相当額を払ってもらうようにすることができます。

このように支払督促、強制執行という法的手続きをとることによりキャンセル料の回収を図ることはできますが、そのためには、相当の手間や費用がかかります。可能な限りこのような手続きに至らない方法で解決させるべきです。