運用を海外の運用機関に委託しているため、投信販売が増えても収入の大半が委託費に流れてしまう。2022年3月期には大手9社で前の期比25%増の1125億円に膨らんだ。「貯蓄から投資」の流れを収益に取り込むには海外資産の自前運用の拡大が欠かせない。各社の取り組みも加速し始めている。
前期の大手9社の「委託調査費」は8社で増えた。三井住友DSアセットマネジメントは56%増の121億円と、営業費用の24%を占めた。9社合計の1125億円は純利益の合計1040億円より多く、会社によっては純利益の2~3倍だ。

個人が株式など海外資産に投資する動きは拡大の一方だ。投資信託協会によると22年3月までの1年間に11.3兆円が株式投信に流入し、うち海外資産を含む投信が9.5兆円を占めた。運用各社の投信販売も増えたが、純資産の増加に伴って委託費も膨らんだ。
日本株など国内資産の場合、運用会社は社内にアナリストやファンドマネジャーを配置して独自の視点で企業を調査・分析して運用する。一方、海外企業を分析する人材は乏しく、ノウハウも限られ、海外の金融機関に費用を払って運用を任せるケースが多い。米欧の高利回り債券や不動産投資信託(REIT)などで運用する投信も同様だ。
例えば、三井住友DSアセットの「グローバルAIファンド」は米系のヴォヤ・インベストメント・マネジメント・カンパニーが実質的に運用する。アセマネOneの「新光US-REITオープン」も実質的な運用は米系運用会社インベスコ・アドバイザーズ・インクが担う。
運用会社にとって委託調査費は個人マネーを取り込むための「必要経費」になっている。自前で運用するより収入は落ちるとはいえ、一定の収益にはつながる。22年3月期は委託調査費の伸び以上に営業利益を伸ばした運用会社が目立った。

海外資産の運用体制を築くには海外拠点の設立や人材採用など追加コストがかかる。「自社で持っていない能力は外部委託を通じて提供するほうが合理的」(PwCあらた有限責任監査法人)とされる。
ただ、中長期的な運用業界の成長という点では問題をはらむ。海外の運用会社が日本で直接、投信を売るようになれば日本の運用会社は「中抜き」される。実際、公募投信の純資産残高はトップが米系のアライアンス・バーンスタイン、上位には欧州系ピクテ投信投資顧問やフィデリティなど外資系が並ぶようになっている。
個人マネーが海外資産に流れる傾向は長期に続く可能性がある。外注一辺倒では運用会社は果実を得られない。モーニングスターの朝倉智也社長は「現時点では現地で強みのある海外運用会社と手を組む必要があるが、将来的には自社運用と委託運用の割合を考えるべきだ」と話す。実際、海外資産の運用に取り組む動きも広がってきた。
三井住友トラスト・アセットマネジメントは、高度な数学的技術とデータ分析に基づくクオンツ運用の手法を海外株投信に活用する。利益成長率やPER(株価収益率)など伝統的な分析指標と、特許やブランド価値、ESG(環境・社会・企業統治)といった非財務情報を組み合わせて銘柄を選別する。
19年に日本株の私募投信で始めたところ、ベンチマークを上回る成果だった。非財務情報を活用する手法を世界株投信にも取り入れる。クオンツ運用であれば海外企業を現地調査するアナリストなどは必要ないという。「経営資源が限られる中、クオンツは海外株の自社運用の有効な手段になる」(アクティブ運用部)とみる。
野村アセットマネジメントは今夏には、北米での現地調査を拡充すべく米国に調査室を設置した。「グローバルに競争力のある自社運用部隊を強化していく」とする。世界の成長株に投資するファンドでは、11年から準備を始め15年に公募投信の販売を開始し、純資産は1000億円を超えてきた。
中長期目線での人材育成も欠かせない。楽天証券経済研究所の篠田尚子ファンドアナリストは「若手の運用担当者が少ないのが業界共通の課題。早い時期から適性を見極めて海外株などの運用の最前線に配置して、キャリアを積む仕組みが必要だ」と指摘する。
運用残高に応じて入る信託報酬の料率は競争激化で低下し、株式投信の平均は直近で1.01%と3年前と比べ0.05%低い。縮こまっていては先細りは避けられず、自己変革は待ったなしだ。海外株の人気が、課題を浮き彫りにしている。(湯浅兼輔、日高大)

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