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設備投資、ルーキー不在 開廃業率、米欧の4分の1 代謝鈍く成長停滞

過去最高水準の利益の下でピークに届かず、米欧と比べても伸び悩む。金額のトップ10を集計すると、通信や電力、鉄道などインフラ系が目立つ。エレクトロニクス関連企業は順位を下げた。次の成長をけん引するルーキーは見当たらず、日本経済の活力の低下を印象づける。

「我が国企業部門は慎重な設備投資スタンスが続いている」。内閣府は2022年の経済財政白書で、企業の経営が保守化し、お金を使わない傾向が強まっていると指摘した。財務省の法人企業統計をみても経常利益が拡大している割に投資は伸びていない。

経済協力開発機構(OECD)によると、過去30年間で企業の設備投資は米国が3.7倍、英国が1.7倍、ドイツが1.4倍となった。日本は1%増とほぼ横ばいだ。

QUICK・ファクトセットで東証株価指数(TOPIX)の金融系を除く21年度の設備投資額ランキングを作成したところ、トヨタ自動車、NTT、日産自動車がトップ3で、直近のピークの06年度から顔ぶれに変化はなかった。

トヨタは3兆4800億円で、06年度から6000億円強増えた。2.2兆円はリース用資産で、自動車車両の取得などにあてた。モデルチェンジや生産性向上のために工場や機械にも投資している。

NTTは携帯電話の設備やデータセンターの拡充などに1兆7500億円を投じた。高速通信規格「5G」向けが増加傾向だ。通信会社は4位のソフトバンクグループ、11位のKDDIも06年度より投資額が多かった。上位は鉄道会社や電力会社も目立つ。

インフラ系の企業が存在感を増す陰で順位を下げたのがエレキ関連だ。日立製作所は2900億円と15年前から大幅に減り、4位から20位に落ちた。事業再編で旧日立国際電気、旧日立化成などを相次ぎ売却してきた。キヤノンは9位から41位、パナソニックホールディングスも10位から29位に後退した。

企業の投資行動に詳しい帝京大学の田中賢治教授は「2000年代の投資が期待した収益を生まなかった失敗経験も悪影響を及ぼしている」とみる。データを分析すると、08年のリーマン・ショック以前に大規模投資をした企業は投資回収に苦しんでいた。

投資の質の変化もある。日立の河村芳彦副社長は7月29日、4~6月期決算のオンライン会見で「今は設備投資の中身を精査して、大きく固定資産を積むような設備投資を抑制しながら、無形資産を増やしていくような対応をしている」と説明した。

それぞれに合理的な経営を探る企業の動きを全体として見渡すと日本経済の停滞が浮かぶ。内閣府は開業率と廃業率を足し合わせた「代謝率」に着目する。米国や英国、ドイツが20%前後で推移するのに対し、日本は5%程度しかない。日本企業の新陳代謝が乏しいことを示すデータだ。

米国は新たな企業が投資を重ねて成長し、経済をけん引するダイナミズムがある。日本企業と同様にQUICK・ファクトセットで米企業の設備投資額を並べると、21年度は首位がアマゾン・ドット・コムで、グーグルの持ち株会社アルファベット、ゼネラル・モーターズ(GM)、マイクロソフト、インテルと続く。

トップ5で06年度から残っているのはGMだけ。98年創業のグーグルをはじめIT(情報技術)大手が代わって主役に躍り出ている。

企業がお金をため込むだけでは持続的な成長が望めないことははっきりしている。リスクを取る起業や投資に前向きになれる環境を整えなければ、日本経済の地盤沈下は加速しかねない。

(マクロ経済エディター 松尾洋平、丸山大介)