贈与税は年間(1月1日~12月31日)の贈与財産について、贈与を受けた人に課税される。ただし1人当たり年間110万円の基礎控除の範囲内なら税金はかからない。また、親から子への贈与で一度に多額のおカネを非課税で受け取れる仕組みもある。例えば住宅取得資金は今年、最大1000万円まで非課税で受け取れる。
一方で「贈与税がかかると思わず、うっかり申告せずに追徴課税される例も少なくない」(藤曲武美税理士)。税務当局が調査などを通じて贈与税の適正な申告を求めた件数のうち、まったく申告していなかったケースが例年、約80%にのぼる。1件当たりの追徴税額も200万円前後と多い。
親子間の贈与で「うっかり申告漏れ」に注意しないといけないのが、まず生命保険の満期保険金だ。契約者として保険料を支払うのが親で、受取人が子の場合に申告漏れが起きやすい。契約者と受取人が異なると、契約者から受取人への贈与となり課税対象となる。
子が親から土地などを購入したとき、近隣の取引事例や公示地価などの時価を下回る金額だった場合も、時価と購入金額との差額に贈与税がかかる。バブル時代に租税回避のため、時価を下回る価格での土地売買が親子間でも横行した。そこで国税庁が課税強化に乗り出した経緯がある。
親子が共有で住宅を取得する場合も要注意だ。親子の負担割合が「親40%、子60%」なのに、登記割合が「親10%、子90%」だと、登記割合の差額の30%分が子への贈与とされ、課税対象となる。
親が自宅や株式の名義を無償で子に変更した場合も課税対象だ。子が借入金を親に肩代わりしてもらった場合も、子は肩代わりしてもらった金額分の利益を受けたことになり、贈与税がかかる。
「親子の間のやり取りだから、税務署に分かるはずがない」と思ったら大間違い。「税務当局は親子間の贈与には特に神経質で、いろいろな手段で把握しようとする」(ランドマーク税理士法人の清田幸弘代表税理士)からだ。
どうやって把握するのか。まず金融機関などが税務署に提出する「法定調書」から調べる方法がある。代表的なのが生命保険金の調書。生命保険会社は保険金の支払いの中身を記した法定調書を税務署に提出する義務がある。税務署はその調書を調べ、満期保険金の契約者が親、受取人が子で、贈与税の基礎控除を上回るといった課税が必要と見られるケースについて「通常8月ごろから本格的に申告を促す連絡をする」(清田氏)。
所得税など他の税金の申告書を調べるやり方もある。特に住宅ローン控除の適用を申告した書類を調べる。「不動産の購入金額に比べ、年収やローンの金額が少な過ぎれば贈与が疑われる」(辻・本郷税理士法人の浅野恵理税理士)。
不動産の登記内容を税務署が独自に調べる場合もある。国税庁は法務省から毎月、不動産の所有権の移転登記の情報を得ているので、税務署は不動産の購入者や親から子への名義変更を機動的に把握できる。その情報を基に「お買いになった資産の買入価額などについてのお尋ね」という質問文書を送る場合がある。
この「お尋ね」では、不動産の購入金額や購入資金の調達方法、前年の所得金額などの回答を求められる。「購入金額と借入金、自己資金との差額が多いのに明確な回答がないなど贈与が疑われるものをあぶり出す狙いがある」(藤曲氏)。「お尋ね」に回答する法的義務はないが、税務署は事前調査済みのケースが多く「回答するのが無難」(浅野氏)という。
親子間のおカネのやり取りで課税対象にならないものもある。代表的なのは親が子の教育費、生活費に充てるための贈与だ。
例えば海外の大学に留学する子の学費や生活費に充てるため、日本の銀行口座から海外の子の口座に送金する場合。金融機関は1回当たり100万円超の海外への送金や海外からの入金について、その中身を記した法定調書(国外送金等調書)を税務署に提出する。税務署はその調書を基に「課税対象となる贈与ではないのか」と親に問い合わせる例が少なくない。その場合は子の支出明細などを示し「実際にこれだけ学費や生活費に使ったから課税対象ではない」と説明すれば課税されずに済む。
(後藤直久)

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