テスラ、日本で「仮想発電所」 戸建てに蓄電池、電力系と組む 再生エネの需給安定へ

仮想発電所は、戸建てなどに設置した太陽光パネルや蓄電池といった電力設備を制御し、1つの発電所のように運用する仕組み。出力が不安定な再生可能エネルギーが普及するなか、電力を安定供給する調整弁となる。テスラは電力系企業と手掛ける宮古島での取り組みを全国に広げる。仮想発電所が日本で定着するきっかけとなる可能性がある。

 

テスラの家庭用蓄電池「パワーウォール」を活用する。電力が余っている時間帯には各家庭に設置した太陽光パネルから蓄電池に電気をため、足りない時間帯には蓄電池から電力網に電力を供給する。こうした運用により、地域全体で電力需給を最適化する。

日本法人テスラモーターズジャパン(東京・港)が沖縄電力などが出資するネクステムズ(沖縄県浦添市)と組み、2021年から沖縄県宮古島市で仮想発電所を運用してきた。宮古島での実績を踏まえ、24年度以降にも沖縄県全域に拡大し、将来的には本州にも展開する計画だ。

パワーウォールは1台あたり約110万円。先行する宮古島では既に300台以上が設置されている。仮想発電所の運営はネクステムズが担う。同社が太陽光パネルや蓄電池を購入し、島内の家庭に無償で設置。沖縄電力の指令に応じて需要や供給を調整する。

 

 

仮想発電所から供給される電力は沖縄電力が通常より高く買い取るほか、太陽光パネルで発電した電力を顧客に売ることなどを通じて、ネクステムズは事業として成立させている。参加する家庭は自宅の屋根や壁にパネルや蓄電池を設置する対価として、沖縄電力が販売する電気料金よりも5%程度安い価格で電力を購入できる。

蓄電池の空き容量などのデータはテスラが保有するクラウドサーバーで管理する。ネクステムズはスマートメーター(次世代電力計)や太陽光発電量などのデータとテスラのデータを連携させ、効率的な仮想発電所の運営に生かす。パワーウォール1台の蓄電容量は13.5キロワット時。300台で家族4人の一般家庭10世帯が1カ月で使用する電力に相当する。

テスラはすでに同様のサービスを米国やオーストラリア、英国などで展開している。パワーウォールは、米ネバダ州に拠点を置く電池工場「ギガファクトリー」で生産している。量産効果で電池の原価低減につなげる狙いもある。

家庭用蓄電池の普及で先行する米国では、仮想発電所が電力不足の解決策として注目を集めている。テスラは6月、パワーウォールを保有する約2万5000人の顧客に対し、電力が逼迫する午後4時から9時の間に系統への電気供給を呼びかける取り組みを始めた。

 

カリフォルニアを地盤とする電力会社PG&Eと連携している。参加者はスマートフォンのアプリから申請するだけでプログラムに参加でき、1キロワット時あたり2ドルを受け取れる。

仮想発電所としては世界最大級の取り組みで、PG&Eのアウグスト副社長は「電力網の信頼性や再生エネルギーの未来にとって不可欠だ」としている。テスラはこのプロジェクトで収益を得ることはないとしているが、電力会社と組むことの宣伝効果は大きい。

カリフォルニア州の送電網を管理するカリフォルニア独立系統運用機関によると、7月15日の午後7時25分から約30分間、史上初めて蓄電池経由の電力供給が原子力発電所経由を上回った。日中に太陽光発電で作った電気を蓄電池にためておき、太陽光が陰る夕方の需要期に合わせて系統に供給することで、再生エネの需要変動を補った。

国際エネルギー機関(IEA)が21年に発表したシナリオでは、電力用蓄電池の累積容量は25年に1億4800万キロワットと、20年比で8.7倍になり、30年には5億8500万キロワットまで拡大する見込みだ。

欧米では再生エネ発電施設と組み合わせた大規模な蓄電施設の実用化も始まった。スペインの電力大手イベルドローラは6月、アイルランドに5万キロワットの容量の大規模蓄電施設を設置した。投資総額は2800万ユーロ(約38億円)で、サッカーグラウンド大の敷地に、コンテナ16個分の蓄電池を並べた。洋上風力などで発電した電気を蓄える。

課題はコストだ。英調査会社IHSマークイットが2月に発表したリポートによると、蓄電池に使うリチウムイオン電池の価格は1キロワット時あたり110ドルで、21年後半だけで10~20%上昇したという。世界中の自動車メーカーがEVに力を入れる中、リチウムやコバルトなどの原材料は争奪戦となっており、需給が逼迫している。「電池の製造能力が拡大する24年まで価格が下落する可能性は低い」としている。

(柘植衛、外山尚之)