来年の利下げ転換を織り込み出した市場の動きを念頭に「歴史は時期尚早な金融緩和を強く戒めている」とけん制した。
9月20~21日に予定されている次回の米連邦公開市場委員会(FOMC)の決定については「新たに入ってくるデータや経済見通しを総合的に判断する」と明言を避けた。政策金利は景気を熱しも冷やしもしない中立金利に達したが、「ここで(利上げを)止めることはない」と改めて言及した。

講演の直前に米商務省が発表した7月の個人消費支出(PCE)物価指数は前年同月比6.3%上昇した。ガソリン価格の下落などで約40年半ぶりの大きさだった6月の6.8%から縮小した。パウエル氏は「1カ月の改善ではインフレ率が低下していると確信するにはほど遠い」と指摘。7月会合後の記者会見で「異例の大幅な引き上げが適切になる可能性がある」と発言した経緯に触れ、0.75%の大幅利上げが続く可能性を排除しない姿勢を改めて示した。
一方で「金融政策がさらに引き締まるにつれて、ある時点で利上げペースを緩めることが適切となる可能性がある」としていた発言も踏襲した。「物価の安定を回復するには引き締め的な政策姿勢をしばらく維持する必要がありそうだ」とも述べ、市場の一部で浮上した早期の利下げ観測に否定的な見解を示した。
利上げは「家計や企業の痛み」をもたらすと言及した一方、市場で浮上している米景気の後退懸念には言及しなかった。7月会合の議事要旨では参加者から金融引き締めが過度に景気を冷やすリスクについて懸念が出ているが、パウエル氏は「価格の安定がなければ、経済は誰のためにも機能しない」と明言した。
歴史の教訓として例示したのが、早期の金融緩和で高いインフレの長期化を招いた1970年代だ。「現在の高インフレが長引けば長引くほど、高い物価上昇率が続くという予想が定着する可能性が高くなる」と懸念を示し、まずはインフレ抑制を優先する決意を強調した。
講演を受けマーケットでは警戒が広がった。
米株式市場では26日、ダウ工業株30種平均が前日比1008ドル(3%)安の3万2283ドルで取引を終えた。パウエル氏がインフレ抑制を最優先に利上げを続ける方針を改めて強調したことで、金融引き締めの長期化観測が強まり、米景気が一段と悪化するとの見方から幅広い銘柄に売りが広がった。ハイテク株比率が高いナスダック総合株価指数も3日ぶりに反落し、前日比497・555ポイント安の1万2141・710(速報値)で終えた。
債券市場では米長期金利が3%台と高止まりした状態が続く。指標となる10年物国債の利回りは約3.03%で、前週末と比べて0.04ポイント高い。2年債の利回りは同0.11ポイント上昇の3.38%台となった。短期の利回りが長期を上回る「逆イールド」の状態が続き、景気後退への懸念を強めている。
米ブライトン証券のジョージ・コンボイ会長は「金利上昇による住宅市場の冷え込みが耐久消費財の購入控えにつながるなど、家計支出の減速につながる」として、景気の先行きを不安視する。米証券ミラー・タバックの株式ストラテジスト、マシュー・マリー氏は「9月のFOMCに向けて相場は荒れるだろう」とみる。
外国為替市場では、「安全通貨」とされるドル買いが進んだ。26日のニューヨーク市場では主要通貨に対するドルの強さを示す米インターコンチネンタル取引所(ICE)算出の「ドル指数」が一時108台をつけた。前日より0.4ポイントほど上昇。8月に入って約3%上昇している。
米金利先物市場に織り込まれた政策金利の見通しを示す「フェドウオッチ」によると、次回9月のFOMCで0.75%の利上げを見込む割合は26日時点で約60%となり、1週間で13ポイント上昇した。

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