厚生年金を分割
年金分割は結婚していた間の厚生年金を離婚後に夫婦で分け合う制度だ。請求によって厚生年金(報酬比例部分)の保険料納付記録を分割し、分割後の納付記録に基づいて2人の年金をそれぞれ計算する。実際に年金を受け取れるのは原則65歳からになる。
例えば会社員の夫と専業主婦が離婚した場合、元夫は原則65歳以降に基礎年金と厚生年金を受給できる一方、元妻は基礎年金しか受け取れない。年金分割の手続きをすれば、結婚していた間に元夫が支払った厚生年金保険料の記録を元妻に分割できる。専業主婦だった元妻も一定額の厚生年金がもらえるようになる一方、元夫の厚生年金は減る。
厚生労働省によると、2020年度の年金分割件数は2万9781件で10年度に比べ約6割増えた。ただし離婚件数に占める比率は15.5%にとどまり、離婚する夫婦の8割以上は年金分割をしていないことを示す。夫が自営業者などで厚生年金の加入期間がなければ年金分割の対象外になるほか、「制度自体を知らない女性が依然として多いことも背景にある」とファイナンシャルプランナーの岩城みずほ氏は指摘する。

年金分割には2種類ある。一つは「合意分割」で、原則結婚していた期間すべてが対象になる。分割割合は2人が話し合いで合意するか、家庭裁判所の審判や調停で決める。専業主婦だけでなく、共働きでも妻の方が収入が少なかったり、出産・子育てで離職期間があったりして妻の納付保険料が少なければ分割を受けられる。分割割合は2人の納付記録の合計に対し最大50%までとなっている。
もう一つの「3号分割」は08年に始まった制度。08年4月以降の結婚期間のうち配偶者の被扶養者(国民年金の第3号被保険者)になっていた時期が対象。専業主婦やパート勤めで厚生年金に未加入だった人が主に該当するとみられるが、共働きでも一時的に離職して夫の被扶養者だった時期があれば、その期間については対象で、残りの期間は合意分割になる。3号分割の期間の保険料納付記録は一律50%で分割する。相手の合意は不要で、元妻が1人で手続きをすることが可能だ。

事前に金額把握も
では年金分割をする際は一般的にどんな手順になるのだろうか。まず年金事務所で「年金分割のための情報通知書」の請求手続きをする。分割の対象期間や、50歳以上なら分割後の年金見込み額を記載している。結婚期間を証明できる戸籍謄本または抄本などと基礎年金番号かマイナンバーが必要だ。申請は離婚の前でも後でも可能で、2人一緒でも、1人でも構わない。1人で申請する場合は相手に知られることはなく、妻が夫に内緒で手続きすることもできる。
「情報通知書」を受け取ったら、合意分割の場合は2人で分割割合を話し合う。合意すれば離婚後に2人で分割請求の手続きをする。合意できなければ、家庭裁判所での審判や調停になる。岩城氏は「家裁では50%で決まることが大半。年金保険料は夫婦が連帯して納めてきたという考え方があるためだ」と話す。分割割合が決まれば、1人でも分割を請求できる。
3号分割では分割割合の協議は必要ない。分割方法が3号分割だけの場合は、情報通知書の請求・受け取りをせずに分割請求をしても構わない。

注意が必要なのは分割対象が厚生年金の報酬比例部分のみで、基礎年金や企業年金を含まないこと。分割で年金がどれくらい増えるかは元夫婦それぞれの収入などで様々だ。厚労省によると分割を受けた人の増加額は20年度平均で月約3万円、3号分割のみの場合は月6000円ほどだが、終身で受給できるメリットは小さくない。条件を満たすなら手続きをするようにしたい。
(宮田佳幸)

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