カメラやセンサーなどの導入費用がハードルだったが、月額料金で使える設備が登場し、人件費を半分に抑え投資回収できるケースも出てきた。ファミリーマートやトライアルホールディングス(HD、福岡市)など国内小売りが本腰を入れる。米中新興も日本に参入しコスト競争が進みそうだ。
商業施設のルミネエスト新宿(東京・新宿)の従業員休憩室にファミマが7月に開いたコンビニエンスストアは約15平方メートルの小型無人決済店だ。
客はアプリのダウンロードや登録の必要はなく、棚から飲み物などを取って出口近くの決済エリアに立つだけで、スキャンなしで自動的に商品一覧と合計金額が画面に表示される。交通系ICカードやクレジットカードなどから選んで決済すればそのまま出られる。
ファミマはこうしたコンビニを2021年以降、首都圏の駅構内や郵便局、物流施設などに6店出した。今後1千店規模に増やす。

計5万店超に達した日本のコンビニ店舗数は19年に減少に転じた。人手不足とフランチャイズチェーン(FC)加盟店オーナーの高齢化で24時間営業は岐路に立つ。経費の大半を占める人件費の高騰が不可避だ。
需要が限られ出店が難しかった施設内スペースや過疎地などマイクロ(極小)市場でも、無人決済店なら出店機会を増やせる。ファミマの狩野智宏執行役員は「コンビニは通常2人以上の店員が必要だが、商品補充などを担う1人だけで運営できる」と話し、人件費などを約半分減らす。

技術を提供するのがJR東日本の関連企業でファミマも出資するTOUCH TO GO(タッチトゥゴー、東京・港)だ。天井のカメラや棚のセンサーから得たデータを独自のアルゴリズム(計算手順)で解析し、客と商品の動きを追跡する。識別精度は約95%だ。阿久津智紀社長は「小売りサービスの維持に無人化は不可欠だ」と断言するが、「導入費用の高さが普及の足かせになる」とみてコスト圧縮を急いでいる。
決済端末とカメラ、センサーに骨組みや棚をセットにし、組み立てるだけで内装工事なしで開設でき、3日の工期を近く半日に縮める。本体導入費は運搬・設置にかかる数十万円(冷蔵庫など除く)ですむ。利用料は約7平方メートルの極小タイプで月20万円からに抑えた。

カメラやセンサーを使う無人店の出店には一般的に数千万円は必要だ。米アマゾン・ドット・コムの「アマゾン・ゴー」などのように、新しく棚のセンサーなどを搭載した無人化店舗を一からつくると投資は1億円超かかるとの試算もある。
タッチトゥゴーの導入先は高級スーパーの紀ノ国屋や空港土産店「ANA FESTA」などの計18カ所に拡大し、来年にかけて100カ所をめざす。
スーパーで先行するのがトライアルHDだ。傘下のトライアルカンパニーが4月に福岡県宮若市に開いた「トライアルGO脇田店」は看板店舗として最新技術で省人化を加速している。
スーパーはコンビニよりカメラやセンサーの費用が膨らむ。そこで独自開発のレジ機能付きカートを活用してきた。商品をかざすと画面に商品名と金額が表示され、ゲートを通れば会計が済む。レジ業務の人員と時間を最大4割削減できた。
脇田店はレジ以外も省人化し、総菜などの売れ行きを人工知能(AI)カメラで確認し電子棚札の価格を自動で下げる仕組みを始めた。総菜の加工スペースをなくし、カメラ情報をもとに近隣店から補充。約1千平方メートルと小型ながら従来並みの品ぞろえを保つ。

カメラやレジ機能付きカートなどがない同規模店に比べて人件費を25%削減した。来年にかけ50%減の達成を見込む。外部技術も活用して改良を重ね、数年で完全無人店を確立する。
無人店開発は米中で先行してきた。米スタンダードコグニションのシステムはAIカメラだけで96%の精度で客の商品を把握できセンサーが不要だ。コストはセンサー付きの新設店舗の10分の1で済む。カメラの台数の半減に成功し、日米のコンビニなどに導入する。
中国では新興企業、雲拿科技(クラウドピック)が出店費用を従来の半分に抑えた技術を武器に世界10カ国以上で攻勢をかけ、日本でもダイエーとNTTデータが開いた無人店に提供する。
調査会社モルドールインテリジェンスによると小売り自動化の世界市場は26年まで年15%伸びる。中国では数年前に無人店が急拡大したが、操作が煩雑なうえ品ぞろえが乏しく淘汰が進んだ。今後は認識技術向上に加え、利用者の使い勝手の向上が課題だ。
決済機能付きカートではレジ待ちの短縮や画面に購買履歴に応じたお薦め商品などを配信することで来店頻度や売り上げが高まるケースもある。最新鋭の設備をマーケティングツールとしてうまく活用し、投資効果をいかに最大化するかもカギを握る。

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