正社員の共働き世帯の3割が、十分な育児家事や余暇の時間をとれない状況に陥っている。母子家庭では育児に充てる時間が2人親家庭の半分以下で、家族の形による育児時間の格差も広がる。国際的にも日本人の子どものケアや余暇などに充てる時間は主要7カ国(G7)で最も少ない。
共働き夫婦の妻、80%が時間貧困
経済学では「お金」と「時間」はトレードオフの関係にある。家庭で自由に使える時間はお金とともに有限の資源で、生活の質を決める重要な要素になる。米国で研究が先行していたが、日本でも分析が進んできた。
慶応義塾大学の石井加代子・特任准教授らが分析した。1日24時間を①食事や睡眠など基礎生活に必要な時間②可処分時間――に分け、可処分時間から労働・通勤時間を差し引いた時間が、国の統計で示される一般的な育児・家事時間より少なければ「時間貧困」と定義した。
例えば、6歳未満の子どもが1人いる世帯では、平均およそ1日8時間を家事、育児、介護、買い物に使っている。
分析の結果、6歳未満の子どもがいる正社員の共働き世帯の場合、31%が時間貧困に陥っていた。妻と夫で分けると、妻の80%が時間貧困だったのに対し、夫は17%。石井特任准教授は「夫の家事への参加時間の少なさが、働く妻の余裕をなくしている」と説明する。
経済学では「子どものケア」にかかる時間を分けて分析する研究も増えている。子の育成は次世代への投資になるからだ。ケアの観点から見ると、日本の母子家庭の時間貧困はさらに深刻だ。
母子家庭の育児時間、2人親の半分以下
千葉大学の大石亜希子教授が社会生活基本調査を分析したところ、1996年から2016年の20年間で2人親の家庭と母子家庭の育児時間の格差は拡大。6歳未満の子どもがいる場合、16年には2人親家庭の母親が1日225分を育児に充てているのに対し、母子家庭では102分と半分以下で、1日約2時間の差がある。
2人親家庭の女性が家事や余暇を減らして育児時間を増やしたのに対して、母子家庭は家事時間を減らすのが難しい。日本の母子家庭の女性は労働時間が長いうえ、深夜や早朝の就労が多く、外部からの助けがなければ家事を減らすことが困難だからだ。大石教授は「子どもと一緒に夕食を食べる回数が少ないというデータもある。子どもがケアされる権利を守るべきだ」と話す。
余暇時間の少なさ、世界でも際立つ
世界でも日本人の時間貧困は際立つ。経済協力開発機構(OECD)のデータベースで①有償労働(仕事や学校、通勤通学)②無償労働(家事や子どものケア)③個人のケア(睡眠や食事、休息)④余暇(遊びやスポーツ)――を比較すると、日本はG7のうち有償労働が最も長い一方、子どもや個人のケア、余暇に充てる時間は最も少なかった。
テレワークの実施率、年収に比例
新型コロナウイルス禍でテレワークが進み、通勤時間が減った人もいるが、内閣府の調査では、年収が低いほどテレワークの実施率は低かった。家事の外注も「利用は収入に比例しやすい。中所得者層への支援は社会課題として急務」(家事代行仲介のタスカジ)だ。

日本人の無償労働時間が短いことについて、立命館大学の筒井淳也教授(家族社会学)は「働く時間が長い分、短い時間で集中的に家事・育児をこなす必要があり、負担が重い」と解釈する。
一方、米国の高学歴・高所得の女性は、ベビーシッターなど家庭内労働者を雇うことで仕事と育児の両立がはかれる。そのため横軸を学歴、縦軸を出生率としてグラフを描いた場合、高学歴の女性と、子どものケアをすべて自分で担う低学歴の女性で出生率が高い「U字」の形になっているという。
日本の女性は金銭面に加え、家事の外注に罪悪感を覚えやすいとされ、筒井教授は「日本の女性は家事の外注もできず、専業主婦でいることも難しい状況にある。グラフで例えれば、多くの女性が(子どもの数を増やしにくい)U字の底にいる状態だ」と話す。
所得の問題だけではなく、生活時間に余裕がなければ子どもを多く育てるのは難しい。少子化を加速させないためにも、男性の家事参加はもちろん、働き方の見直し、家事の一層の支援が喫緊の課題となっている。
(福山絵里子)


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