世界で景気悪化懸念が増す中、金融市場では米国の政策金利の早期引き下げ観測が浮上し、株価が反発するなど、不透明感が強まっている。米投資会社ブラックストーンで最高投資ストラテジストを務めるジョー・ザイドル氏に聞いたところ「金利上昇を考慮し、株や債券以外の分散投資の重要性が増している」という。
――経済や市場の先行きをどうみていますか。
「インフレと高金利による経済成長の鈍化がみられるものの、先行きは比較的楽観視している。米国では家計や企業のバランスシートが新型コロナウイルスの感染拡大前よりも健全になった。深刻な景気後退のリスクを下げるだけの十分なクッションがあると考えている」
「歴史的に景気後退前にみられる企業の減益や失業率の急上昇など、代表的な経済指標の変化に注視しているが、今は起きていない」
「欧州でのエネルギーや食料価格の上昇による生活費急騰を警戒している。中国などで新型コロナの感染再拡大が経済回復を遅らせていることにも注視している」
――足元の経済情勢は株式や債券相場にどう影響しますか。
「金利が上昇する状況では債券のデュレーション(平均回収期間)リスクをどう管理するかが重要となる。デュレーションが短いものと、金利水準に合わせて利息が変動する変動利付債がよい。金利上昇へのリスクヘッジになるだろう」
「過去を振り返ると金利上昇局面では株価と債券は同時に値下がりしやすい。オルタナティブ(代替)資産も含めた分散投資が重要になる。オルタナティブ市場はまだ拡大する余地がある。アクティブ運用の重要性も増すだろう」
「米国では賃貸住宅や物流、電子商取引(EC)などの不動産需要は高く、引き続き成長するとみている。旅行やレジャーに対する消費者の需要も高まり続けるだろう」
「長期視点で考えると欧州市場への投資は興味深い。脱石油・脱天然ガスの動きによりエネルギー安全保障の強化が必要になり、これまでにない規模のインフラ投資につながるはずだ。欧州各国で結束した財政政策を促し、経済に様々な波及効果も生むだろう」
――円相場をどう分析していますか。
「円の動きは落ち着くとみている。いち早く利上げに向かった米国のドルが資金の退避先となってきたが、欧州中央銀行(ECB)を含め世界の中銀が引き締めに向かえば投資の選択肢が増える。ドルと他通貨の差が縮まるだろう。日中貿易が改善に向かえば(貿易赤字の改善などを通じて)円安の歯止めにもなりそうだ」
(聞き手は五味梨緒奈)
2018年ブラックストーン入社。バンク・オブ・アメリカのグローバル・ウェルス・マネジメントで投資戦略の策定や、リチャード・バーンスタイン・アドバイザーズでアセット・アロケーションなどに携わる。

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