物価差、家賃除けば数%だが……
「23区に代表される都心と地方都市の家賃の差は、必ずしも正確に把握されていないのではないか」。こう話すのはフィンウェル研究所(東京・新宿)代表の野尻哲史さんだ。総務省「小売物価統計調査」を同研究所が分析したところ、23区の家賃の異常なほどの高さが浮き彫りになった。
家賃水準が比較的低い青森、福井、大分各市と比べると、23区の家賃は実に3倍弱にもなる。横浜市、大阪市と比べても4~5割は高い。同調査で家賃を除く物価の差を調べると、やはり23区は高いが、大半の地方都市との差は数%の範囲にとどまる。
なぜ家賃はこれほど差がつくのか。東京カンテイ(東京・品川)上席主任研究員の井出武さんは「高いコストをかけてでも都心に住みたいという実需が根強いから」と説明する。23区の人口は2021年に転出超過となったが、「収入が不安定になった人の一部が近隣へ転出した影響などが大きいとみられ、23区の人気に大きな変化はない」。
投資マネー集中で家賃高騰
井出さんは「実需の強さを見込んだ投資が家賃上昇をさらに加速させる」とも教えてくれた。個人がほかの人への賃貸目的で行うマンション投資から、大手不動産会社が住宅用地確保のために実施する再開発まで、大小様々な投資が23区など都心に集中する傾向が近年目立つ。
投資が増えて地価が上がったり、より新しい住宅が増えたりすると、家賃もさらに高い水準に設定されやすい。消費財など一般的な品目の価格より、家賃で地域差が開きやすい一因が、こうした投資の存在といえる。
では、家賃の差を知っておくと、私たちの生活にどんなプラスがあるのか。野尻さんは「60代などリタイア期に都心から地方都市へ移住するだけで、老後資金の相当な『延命』ができる場合が多い」と話す。例えば、23区の分譲マンションを賃貸するときの賃料は21年に月平均で約20万円(東京カンテイ調査より推計)。「23区に比べると家賃が半分以下となる地方都市は珍しくないので、これで月10万円が浮く」
移住で年120万を20年間節約
野尻さんは「23区だけでなく、横浜市や大阪市などの都心からの移住でも効果は見込める」という。むろん、家賃さえ下がれば住む場所はどこでもいいわけではない。「通常、移住先は県庁所在地など地方都市が候補になるだろう」。自然が豊かな地域での「田舎暮らし」に魅力を感じる人もいるが、医療や介護、行政サービスなどの都市機能が充実しているかはある程度、念頭に置く方が無難だ。人口密度や高齢化率などのデータ、地元の人との会話などが参考になるという。
一方、リタイア期がまだ遠い現役世代の場合は、家賃を低くするために移住するというハードルは高くなる。年金生活なら居住地で収入が大きく上下することは少ないが、「現役世代はどこに住むかで仕事と収入に変化が起きやすい」(井出さん)ためだ。もっとも、新型コロナウイルス禍を機に広がってきた在宅勤務などにより、今後は収入を大きく減らすことなく、家賃が低い地域へ移り住める可能性が広がりそうだ。

食品などが値上がりする中、家賃負担を低減できれば家計に与える効果は大きい上、都心から多少離れた土地なら、家の中でより広い仕事空間も確保しやすい。
井出さんは「居住コストを月数万円ずつでも減らし、その分を積立投資などへ回すことができれば、若い世代の老後資金の計画も様変わりするのではないか」とした上で、「長寿化に加え、全体的な収入の伸び悩みも目立つ。23区などの都心に暮らす『費用対効果』を、多くの人が冷静に再評価する時期に差し掛かっているのかもしれない」と話している。
持ち家派のメリットはさらに大きく
そこまで大幅な上積みにならなくとも利点はある。都心で中古になった持ち家のマンションを売れば、地方の新築マンション購入に手が届く場合がある。この場合は「資金面だけでなく、住まいの快適性も都心生活のときより上向く可能性が高い」と野尻さんは指摘する。
家計をバランスシート(貸借対照表)に整理すれば、持ち家も預金などと並ぶ大切な資産だ。どうすれば最大限に活用できるか。移住という選択肢も含め、先手で計画を立てるのも一案だ。
(住宅問題エディター 堀大介)

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