米調査会社のニールセンによると、7月の総視聴時間に占めるシェアは34.8%と、CATVを0.4ポイント上回り最長になった。日本でもネット対応テレビでの視聴時間の3割を動画配信が占める。視聴行動の変化は関連企業の戦略にも影響を与えそうだ。
ニールセンの18日の発表によると、7月の米国におけるテレビ視聴時間のうち、ネット配信の占める割合は前年同月より6.5ポイント、6月との比較でも1.1ポイント上昇した。一方、CATVは前年同月比3.3ポイント低下の34.4%にとどまり、初の逆転を許した。地上波放送は2.2ポイント低下の21.6%だった。
ネットフリックスは5月下旬に人気ドラマ「ストレンジャー・シングス」の新シリーズの放映を始め、視聴時間の増加につなげた。シェアは前月比0.3ポイント上昇し8%と、ネット配信の首位だった。米グーグルの「ユーチューブ」(7.3%)、米ウォルト・ディズニーと米コムキャストが共同で運営する「Hulu(フールー)」(3.6%)が続いた。
一方、米国で長年にわたって動画視聴の手段として主役の座を占めてきたCATVは苦戦が目立つ。7月はCATVの有力コンテンツであるスポーツ中継の「端境期」にあたるほか、ニールセンは前年同月に東京五輪が始まったことの反動も出たと分析している。
日本でも動画配信の勢いは強い。調査会社インテージが実施した、インターネットに接続できるテレビを対象にした調査では、2021年の視聴時間に占める動画配信のシェアは29%と16年から26ポイント上昇した。地上波やBS放送などから動画配信へ視聴時間の置き換えが進み、25年には47%まで上昇すると見込む。
国内のネット対応テレビの普及率は22年に3割。動画の利用率はユーチューブが75%で最も高く、米アマゾン・ドット・コムの「アマゾン・プライム・ビデオ」(45%)、民放の番組配信サービス「TVer」(27%)、ネットフリックス(20%)と続いた。
米大手が日本市場で伸長したのは、日本独自の作品制作に力を入れていることが大きい。アマゾンジャパンは日本人作家の作品を原作としたドラマなどで、25年までに日本で独自制作の作品数を100前後に増やす計画だ。ネットフリックスも21年から東宝系の撮影スタジオを借り、実写作品の制作拠点とするなど体制を整えている。
動画配信の浸透は関連産業にも影響を及ぼす。家電量販大手のビックカメラでは40型以下のテレビ販売に占める動画配信対応機種は全体の5割と、前年から2割増えた。
パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)傘下のドン・キホーテは、テレビチューナーを省いた「チューナーレステレビ」を21年12月に発売。22年7月までに累計1万5000台以上が売れた。ゲオホールディングスも7月に同市場に参入した。
もっとも、動画配信も参入企業が増え、競争は激化している。ネットフリックスは4~6月期まで2四半期連続で会員数を減らし、同期の決算は売上高が前年同期比9%増の79億7014万ドル(約1兆800億円)と伸びが鈍化した。新型コロナウイルスの流行に伴う「巣ごもり消費」の反動減などに苦しむ。ディズニーも動画配信事業が10億6100万ドルの営業赤字だった。
各社はより多くの視聴者を獲得できるコンテンツの確保に向かう。米国ではCATVを下支えしてきたスポーツ中継にもネット配信の波が押し寄せている。
米アップルは今年から、「アップルTV+(プラス)」を通じて毎週金曜日に米大リーグの試合を放映している。アマゾンも9月から、アマゾン・プライム・ビデオで毎週木曜日に米プロフットボールNFLの試合を配信する予定だ。
ただ、投資余力の大きい企業が相次ぎ参入したことで放映権料は世界的に上昇基調にある。コスト増により、スポーツ放映事業の収益性が低下する懸念も高まってきた。
アクティビスト(物言う株主)として知られる米サード・ポイントは今週、ディズニーに対してCATV局にスポーツ番組を配信してきたESPNの分離を要求した。一方でフールーの運営会社を早期に完全子会社化して傘下のネット配信事業を集約することを求めるなど、視聴行動の変化に合わせて事業を見直すことを求めている。
(シリコンバレー=奥平和行、淡海美帆)

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