「法人税ゼロ」の年が繰り返されたのは、税法で非課税となる配当が多いためとみられる。合法な税務処理だが、税負担の軽さについて、現在の税制が妥当なのかなど議論を呼ぶ可能性もある。
関係者によると、直近15年でSBG単体に法人税が課されたのは10年3月期、12年3月期、13年3月期、17年3月期だった。法人税額は計約170億円で、この間のSBG単体の税引き前利益(計約6兆6千億円)の約0.25%だった計算となる。
連結純利益が日本企業で史上最高の約5兆円となった21年3月期も、単体の法人税はゼロだった。SBGは22年3月期は連結、単体とも大幅な赤字を計上するなど足元の業績は苦戦している。

SBGは有価証券報告書に法人税に関するデータも記載しているが、これは「会計上で税負担とみなす分」などを示したもので、税務上のSBG単体の法人税額とは異なる。SBGは傘下企業とは別に単体で税務処理し、法人税額などは開示されていない。
課税が少ない理由は、収益の大半が税法上は非課税となる傘下企業などからの配当だからとみられる。税法では一定条件を満たす国内子会社からの配当金は全額が、海外子会社からの配当金は95%が非課税となる。
一連の税務処理は合法だ。法人間の配当に課税しない制度も、欧米など海外でも一般的といえる。
ただ会計上の利益と実際の法人税額が極端に開いた例が明らかになるのは珍しい。一部の専門家は「税負担が軽すぎるとの不公平感から、税制や納税状況の説明が十分かという議論につながる可能性がある」と話す。欧州や豪州では、大企業の税負担の軽さが問題視され、納税情報を透明化する制度作りが進んだ。
SBGの税負担について、財務省で法人税制の改正に長く携わった朝長英樹税理士は「適法でも兆円単位の利益のある会社が何年も法人税額がゼロなのは違和感がある。制度に問題がないか検討すべきだ」と指摘する。
企業税務に詳しい弁護士も「日本に本社を置き株式市場などの公共サービスを利用している。ここまで法人税額が少ないと、利益還元が自社株主に偏っているようにみえバランスが悪い」と話す。一方で国際税務が専門の複数の税理士や弁護士は「受取配当が収益の大半である純粋持ち株会社や投資会社で法人税額が少ないのは自然だ」とする。
SBGの税務処理には、これまでも合法的に税負担が軽くなる手法がみられた。
注目されたのが16年に約3.3兆円で買収した英アーム・ホールディングス株を巡る取引だ。18年3月期に中核事業を担う同社の子会社株などをSBGのグループ内で取引し、約2兆円の税務上の欠損金が生じた。
一連の取引を巡っては、国税当局が約4000億円の申告漏れを指摘。SBGも修正申告したが税務上の赤字が多かったため、追徴課税は発生しなかった。また税務と会計ではルールが違い、会計上の損失は計上されなかった。
一連の手法には「税制の抜け穴」との指摘も上がった。国税当局や財務省はその後、「ソフトバンク税制」と呼ばれるルール改正に着手。20年度税制改正で子会社からの配当と子会社株式の譲渡を組み合わせた節税策を封じた。
今回も課税ルールの見直し機運を高める可能性がある。
注目されるのが、海外子会社の配当金の95%を非課税とする現行制度だ。リーマン・ショック後、企業の海外資金を国内に戻しやすくする狙いなどで導入された。海外での納税の有無を問わないため「国内外で二重非課税となる恐れもある」との指摘がある。現制度では海外子会社への課税の詳細を、日本の国税当局も直接は把握しにくい。
投資会社を巡る税制の見直し議論に発展する可能性もある。国際税制に詳しい弁護士は「一般的に投資会社は積極的な節税策で税負担が軽い例が多いといわれる」と話す。米国が大企業への課税強化にかじを切るなど、海外でも法人税制の引き締めが目立つ。業種による税負担の不公平感の解消も課題となっている。
SBGは課税回数や税額、税負担が軽い理由などの日本経済新聞の取材に「有価証券報告書に記載のSBG単体の法人税の欄以外に開示しているものはない。(日経の質問には)間違いが散見されるが、これ以上の回答は控える」と答えた。日経は課税回数などを再取材で確かめた後、再びSBGに質問したが同社は「(前回以上の)回答はない」とした。国税庁は「個別企業の納税状況は回答できない」とした。


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