フェリックスは夏の休暇で南仏に向かう。パリで知りあい恋に落ちた娘アルマと再会するためだ。旅の相棒は、不器用な親友シェリフ。
だが、交通手段は? インターネット時代の今、車の相乗りアプリなる便利なものがある。同じく南仏へ行くエドゥアールという人物が、車への相乗りをさせてくれるというのだ。3人の若い男は狭い車で一路、南仏をめざす。
だが、着いた先で車をぶつけてしまい、修理に1週間はかかる。仕方なくキャンプ地での野宿生活となり、3人の仲にも影が差す。
何も知らせずサプライズでアルマに会いに行ったフェリックスは、けんもほろろの扱いを受ける。一方、シェリフは赤ちゃん連れの若い人妻と知りあって……。行き当たりばったりで右往左往する3人のヴァカンスの行方は?
フランスにはヴァカンス映画の系譜がある。エリック・ロメール、ジャック・ロジエ……。本作の監督ギヨーム・ブラックはその系譜の輝かしい継承者だ。
出てくる人物は、みんなちょっとダメなところを抱えた凡人たち。だが、彼らの悩みや望みや喜びは、私たち誰にもあてはまるもので、それゆえ彼らの一挙一動に感情をゆさぶられる。じつに愛(いと)おしいダメ人間の奮闘の記録だ。
ユーモアたっぷりの人間喜劇として秀逸なうえに、水遊びやサイクリング競争を描いても、画面構成と編集の冴(さ)えで素晴らしいスピード感をかもしだす。むだな説明は一切ないが、きわめて巧みな映画作りなのである。
ヴァカンス映画として、風景の美しさにも感嘆させられる。とくに風光明媚(めいび)な名所を狙うのではない。だが、朝に目覚めて、山の斜面を歩く画面だけで、夏の夜明けの空気の感触を浮きあがらせる。これぞ映画の力である。
ドラマの顛末(てんまつ)にも、喜びと、一抹の寂しさがあって、諸行無常のような感じさえ伝わってくる。ぜひお試しを。
1時間40分。
(映画評論家 中条 省平)

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