https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC205640Q2A720C2000000
三井不動産や住友不動産が試験導入しているほか、管理大手の長谷工コミュニティ(東京・港)も本格展開する。住民は理事を務める負担から解放される半面、住まいの維持管理への関心低下を懸念する声もある。
共同住宅のマンションは居室はもちろん、共用部も含めて適切に維持管理していくことが欠かせない。ほとんどのマンションは管理組合内に置かれた理事会が、管理会社や工事会社との折衝に当たる「理事会方式」を採用している。なかでも、管理組合の理事長は「管理者」と呼ばれ、マンション管理の最高責任者と位置づけられる。
第三者管理方式は、理事長に代わって管理会社の社員が管理者となってマンションの維持管理に責任を負う。組合総会の開催や修繕計画の策定、修繕積立金の管理、居住者への報告といった理事会のすべての業務を実質的に管理会社が担うことになる。住民は管理会社が適切に業務を進めているかを監督し、組合総会などで管理会社の提案に賛否を示すだけでよくなる。
第三者管理方式はマンション管理に無関心な購入者が多いリゾートマンションや投資用マンションの管理手法として普及していた。国土交通省のマンション総合調査によると、管理会社を管理者に選定したマンションは2018年度時点でも6%だった。
近年は一般的な分譲マンションでも導入する物件が増えている。共働き世帯が一般的になるなか、休日が活動の中心となる理事会業務を負担に感じる人は多い。マンションデベロッパーにとって「理事にならなくてよい」というのが売り文句の一つになる。
大手では三井不動産や住友不動産がグループの管理会社で試験導入している。21年から導入し始めた住友不動産では東京都心部を中心に10件弱で採用済みで、購入者の反応を踏まえながら導入物件を増やしていくという。別のある不動産系管理会社は「東京都心部の20~40戸程度の億ション(価格が1億円以上のマンション)を中心に導入を進めている」と話す。
マンション管理大手の長谷工コミュニティや合人社計画研究所(広島市)は既存の管理物件に第三者管理方式の導入を提案している。
合人社計画研究所ではグループで管理業務を受託している約5000の管理組合のうち、すでに2割を第三者管理方式に切り替えた。「管理会社としても休日に開催されることの多い理事会に出向く必要がなくなる。社員の働き方改革にもつながる」(同社)。長谷工コミュニティでは、首都圏と関西で合わせて20件近くの物件で導入済みだ。
第三者管理方式を採用すると、居住者は煩雑な理事業務から解放される半面、「理事会方式のマンションに比べ、維持管理への関心低下や管理会社への監視の目が甘くなる懸念がある」(横浜市立大学の斉藤広子教授)。
長谷工コミュニティはこうした懸念を払拭しようと専用アプリ「smooth-e(スムージー)」を開発した。居住者は「エントランスの照明を明るいものに取り換えてはどうか」といった提案をいつでも投稿でき、賛同者が多かったアイデアはオンライン投票に諮って実現を検討する。理事会内にとどまっていた情報や報告も公開し、透明性向上を図っている。
21年に導入した大阪市内のマンションで理事長を務めていた40代の女性は「専門知識もない一住民にもかかわらず、さまざまな意見に対応するのは大変だった。導入後は重責から解放されほっとした」と振り返る。
マンションは時間がたつにつれ、住民の高齢化や入れ替えなど多様化が進む。大規模な物件ほど意見をまとめるのは難しく、第三者管理方式を採用する物件は増えていく可能性が高い。斉藤教授は「理事会がなくなることで住民同士の交流が失われる側面もある。理事の負担軽減策なども検討した上で、慎重に導入を判断する必要がある」と指摘する。
(上月直之)


コメントをお書きください