1990年代に米国の2分の1を超えた名目GDPは4分の1以下になり、日本の5分の1程度であった中国は日本の3倍を超える経済大国となった。
1人当たり名目GDPでみても日本はG10諸国の中でイタリアと並んで最下位に近く、韓国に急追されている。この指標で2021年の数値を見ると、日本は米国の6割弱となっている。しかし日本に住んで仕事を持ち、子供を生み育て教育を受けさせ、医療サービスを使い、余暇を楽しむ多くの人々にとって、米国の中間層の生活はさほど魅力的には見えないだろう。
一般的な保育園の費用は月千ドルを超え、日本の少なくとも数倍であり、医療費も一般に保険料が高い上に多額の自己負担が必要だ。保険がなければ、虫垂炎で1日入院するだけで1万ドル以上の費用を覚悟する必要がある。
文系大学の授業料も年5万ドルを超え、これも日本の5倍程度となっている。このため、進学のために一千万円を超えるローンを組む学生が多く、卒業後の債務不履行が多発している。国際的な物価比較に入らないことが多い保育、医療、授業料に大きな違いがあり、表面上の所得金額の差が、生活水準に直接つながっていないのだ。
人口を上回る銃が保有され、犯罪歴がなければ簡単に銃を購入できる米国の治安の悪さも生活費に大きな影響を与える。治安が良く公教育の質の良い自治体の不動産は非常に高価であり、不動産価格の1~2%程度の固定資産税も高くなる。固定資産税収の多い自治体は警察官も多く質も良くなり、学校にもお金をかけることができる。これにより富裕層がそうした自治体に集まってくることになる。逆に不動産価格の低い地域の自治体は警察力も低く学校の質も悪くなり、所得の低い層が集中することになる。
日本の社会の長所は、生活の基礎となる医療、保育、教育などのサービスが政府による保険や補助金などにより相対的に安価に提供され、また犯罪率が低く治安が比較的良好に保たれていることだ。こうした広い意味でのサービスは、質を考慮した上で国際比較することが困難で、日本社会の競争力を低く見せていると言えるだろう。
(山河)
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