https://www.nikkei.com/article/DGKKZO63491430W2A810C2TB1000/
小規模が多く、深刻なのは担い手の不足です。帝国データバンクの21年の調査では、飲食店の後継者不在率は全体より7.2ポイント高い68.7%でした。新型コロナウイルス禍で外食産業は大きく変わり、事業承継には早めの準備が必要です。
譲渡先は主に「従業員」「他社などの第三者」「親族」が選択肢で、他業種と同じです。しかし飲食業特有の注意点もあります。
まず店主の味へのこだわりです。関西で20店舗ほど展開していた和食ダイニングの後継者がおらず、19年に相談を受けました。投資会社が候補になりましたが、創業者はお好み焼きの味に強いこだわりがあり、伝統の味が変わるのではと懸念しました。そこで投資会社はすべての店舗で詳細なレシピを共有して味を守る計画を提案し、創業者に示して承継に至りました。
また飲食業は料理のほか、会話の場を提供するサービスも大切です。小さい店舗ほど、常連客は店主と親密な関係になりやすく、店を支えています。常連客をどうつなぎ留め、集客力を保つかが課題になります。
簿外債務にも注意を払いましょう。朝晩の料理の仕込み時間など、従業員に残業代を払っていなかった場合、事業を引き継いだ第三者が未払い賃金を請求されることがあります。
親族間の承継では、オーナーが株式を子どもに譲った後も、店舗運営の主導権を手放さないケースがあります。多店舗展開の場合、まず後継者に1店舗を完全に任せて、段階的に承継させる方法を勧めています。
事業承継はオーナーの願い通りに100%、事が進むことはありません。覚悟を決めて譲れる部分、譲れないことを明確にすることが重要です。
飲食業は参入しやすく、新型コロナ前はインバウンド需要も好調でした。他業種が後継者不足の飲食事業を買収し、事業の多角化を進める動きも目立っていました。
しかし新型コロナで一変し、多くの飲食事業者が政府系金融機関からの借り入れで運転資金を確保しています。買い手は債務の引き受けに後ろ向きで、M&A(合併・買収)が成約しないケースが増えています。現在は新型コロナの感染が落ち着くまで、自ら何とか踏ん張ろうとする経営者が多い印象です。
飲食業は個人経営も多く、後継者がいない場合は廃業という選択肢も浮かびます。ただ、ここ5年ほどで小規模な事業者向けにインターネットで譲渡先を紹介するサービスも増えています。経営者は1人で考え込まず、日本の多様な食文化や味をつなぐため、仲介事業者に相談してみることも一つの手です。

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